エンゲージメントの大幅改善は可能であり、それにより業績を向上させられると考える人は、上述の考え方を悲観的だと一蹴する。しかし問題は、そうした人々が挙げる例の多くが、聡明で士気のある従業員が必ず集まる刺激的な分野の若いスタートアップや企業であることだ。一方で、大半の従業員が従事し、破壊的な行動が歓迎されない斜陽産業の既存企業は、議論の的とならないことが多い。
『The Mind of the Leader(リーダーの心理)』の著者、ラスマス・フーガードとジャクリーン・カーターは、異なるアプローチを取っている。企業の根本的な変革を求めるのではなく、リーダーが自分自身を内省することを求めているのだ。つまり、従業員管理の改善に集中して企業の業績向上を目指すのではなく、不安定で競争の激しい現代社会で求められるリーダーシップを発揮するための自分のニーズに注力すべき、という考えだ。
これにほぼ不可欠なのが、マインドフルネスの要素だ。フーガードとカーターは、世界中の企業にマインドフルネストレーニングを提供する企業、ポテンシャル・プロジェクト(Potential Project)のコンサルタントでもある。だが2人が描く「リーダーの理想的な心理」には、利他の精神と思いやりも必要だ。
フーガードとカーターはマインドフルネスを習慣と心理状態の両方として捉え、「精神の有効性を改善すること」だと述べている。これを身につければ、仕事でも個人のレベルでも自己の潜在能力への理解が深まる。
利他の精神は「強い自信と、人に尽くす謙虚な意思の組み合わせ」だ。フーガードとカーターは、無視無欲になることで隠れた計略がなくなり、信頼が強まると考える。
思いやりは、他者の幸せに奉仕し、他者の問題を緩和したいと望む気持ちだ。フーガードとカーターは、思いやりとは「他者の視点を理解し、その理解を通して他者を支援するため行動を起こす」能力だとする一方で、これは共感とは違うと強調している。
2人によると、共感は他者の苦しみを自分も体験し、どちらも敗者になってしまうこと。一方で思いやりとは、他者の痛みを共有するだけでなく、他者の抱える課題の解決を支援することだ。
このアプローチはリーダーの幸福向上に効果を発揮しそうだが、組織にとってはどうだろう? フーガードとカーターによると、このアプローチを採用するリーダーは、従業員を組織の中心に据える傾向があるため、つながりたい、意味ある存在になりたい、評価されたい、幸せになりたいという社員のニーズを満たすことができる。
これは非常に魅力的だ。また、幸福度が高まれば人はより熱心に、効果的に働くようになるので、もちろん筋は通っている。しかし、仕事に満足した従業員は果たして、勤務中にネットフリックスの最新ヒット作をこっそり見なくなるだろうか?