「タバコの葉」でつくるインフルワクチン、2020年発売目指す

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米国で過去最多の感染者を記録したインフルエンザシーズンが到来する前の2017年9月、カナダのバイオテクノロジー企業「メディカゴ(Medicago)」は、タバコを使ってつくるインフルエンザワクチンについて、臨床試験の第3段階目を始めたところだった。

彼らは、その珍しい製造手法によってつくられたワクチンが、現状の手法に比べて少ないコストで大量生産できると示すこと、そして、多くの人々をインフルエンザから守ることを望んでいる。

メディカゴは、インフルエンザワクチンに革命を起こそうとしている企業のひとつだ。インフルエンザワクチンは、長年にわたって多くの改善がされてきたにもかかわらず、しばしばずる賢いウィルスにやられてしまう。簡単に言えば、インフルエンザの問題とは、ウィルスが素早く変異していくためにワクチンが対応できないサブタイプが生まれてしまうことだ。

さらに悪いことに、多くのインフルエンザワクチンは卵のなかで育てられるため、製造に時間がかかるだけでなく、その間にすでに広まっているウィルスはどんどん形を変えていってしまうことが研究で指摘されている。

FDA長官のスコット・ゴトリーブが声明で、ワクチンは正しく製造されていたと述べていたにもかかわらず、なぜ今年のインフルエンザワクチンがたった25%しか効かなかったのか。確かな理由は誰にもわからないが、FDAの科学者たちは何が間違っていたのかを解明するために、いくつかの研究結果を発表すると彼は語っている。また諮問委員会はミーティングを開き、来年も使うワクチンの品種を選び始めるという。

「FDAは今年のインフルエンザシーズンから得たすべての知識を用いて、来シーズンには最高のワクチンが利用できるようになることを保証します」とゴトリーブは声明のなかで語っている。

タバコは優れたバイオリアクター

メディカゴの科学者たちは、彼らのテクノロジーによって、たとえインフルエンザウィルスが変異してもそれを認識し、攻撃できるようなワクチンをつくれることを示そうとしている。

ワクチンを卵のでつくるときには不活性化されたウィルスが用いられるが、メディカゴはその代わりに「VLP」(virus-like particles:ウィルス様粒子)を使う。これはインフルエンザウィルスの構造をもちながら完全な遺伝子情報をもっていない粒子であり、彼らはこの粒子によってウィルスがどんなサブタイプに変異をしても、それに感染した細胞を排除できるような特殊な免疫細胞をつくることができると考えている。

しかし彼らは同時に、パンデミックを引き起こすような変異体がインフルエンザシーズンの最中に現れたときに備えて、即座にワクチンの構成要素を変えることのできるような余白も残したいと考えている。

数年間の研究を経て、彼らはベンサミアナタバコにたどり着いた。タンパク質を高速で生成する能力をもつタバコ属の植物である。メディカゴは卵を使った従来の手法では6カ月かかるワクチンの製作期間を、6週間にまで短縮した。 ワクチンはインフルエンザウィルスの遺伝物質を植物に導入することでつくられる。その後4〜10日かけてウィルスは増殖。植物は「ミニ・バイオリアクター」のように機能し、葉にVLPをつくるのである。

メディカゴの株の40%はフィリップ・モリスがもっている。タバコ市場の新しい可能性を探していたタバコ界の巨人は、10年前に初めて同社に投資を行い、そのバイオ技術に1500万ドル以上を注いでいるという。2013年、田辺三菱製薬が残りの60%の株を購入している。
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翻訳・編集=宮本裕人

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