「超大容量・超高速通信」「低遅延」、約500km/hの移動中でも接続を可能とする「モビリティ」などが特徴とされている5G。そんな“夢の通信環境”が整備された折には、人工知能(AI)にどのような好影響がもたらされるのだろうか。イベント会場で、自社開発したAIセキュリティーカメラシステムなど、数多くの製品およびソリューションの展示を行っていた韓国通信大手・KTの関係者は言う。
「MWCでの展示の数々をご覧になればご理解いただけるかと思いますが、将来的にコネクティッドカーやIoT端末、スマートシティ用のセンサーなどが増え、これまでよりもさらに膨大な量のビックデータが生まれることが予想されます。その際、5G通信が持つ超大容量や超高速、低遅延といった特徴は、AIの能力向上に大きなメリットを発揮するでしょう」
これまでも、そしてこれからも、社会から吸い上げられたビックデータは、AIを学習させるために使用されていくはずである。ただし、既存のAIとデータの関係性をイメージに置き換えると、家に教材を持ち帰って事後的に学習し、提出日に備える“宿題”のようなものだったといえる。そこには、学習と稼働の間に少なからぬタイムラグがある。
一方、5G環境が整えば、よりリアルタイムに膨大なデータ処理が可能となる技術的環境が整うことになる。さしずめ、AIの“リアルタイム勉強会”を実現する契機になると言ったところだろうか。
例えば、交通状況のモニタリングや証券取引所におけるやりとり、クレジットカードの不正防止、ネットのアクセス解析などAIの活用が始まっている分野では、ビックデータをリアルタイムで処理する必要性が増し始めている。いずれも、適切な判断を迅速かつ正確に行うためだ。
そのような場面で、5G環境の実現は必須になってくるだろう。なお、大量のビックデータをリアルタイムで分別・取捨選択し、必要かつ優良なデータを取り出す技術は「ストリームデータ処理」と呼ばれているが、通信環境とともに発展が期待されている分野である。
「センサーがいかに有用なデータを吸い上げたとしても、しっかりと送受信されなければ、まったくの無意味です。そういう側面で言えば、従来の規格に比べてデータの消失が少ないというのも5Gのメリットとなります」(前出、KT関係者)
人間に例えるならば、産業用ロボットやコネクティッドカー、IoT端末などハードウェアは、世の中に働きかけデータを集める「身体」となり、人工知能はデータを処理する「脳」の役割を果たす。5Gなど通信環境は「神経」に該当するだろう。その3つがバランス良く発展した時、「社会の知能化」がまた一歩前進するはずである。