「土用の丑の日」の影に潜むブラックウナギ問題

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パンダのシャンシャンは、日本中のファンに見守られながらすくすくと成長している。中国政府の手厚い保護が功を奏し、頭数も2000頭を上回ったことからIUCN(国際自然保護連合)は、2016年にジャイアントパンダの絶滅危惧種カゴリーをIB類からII類へと一段階格下げした。

この数の少ない大切な動物に、国民が一丸となって愛情をそそぐのは、まことに微笑ましいことである。ところが、急激な減少によりレッドリストの絶滅危惧IB類に掲載されるも、いまだに乱獲され、蒲焼にまでされている種がある。ニホンウナギである。

ニホンウナギは、2013年に環境省の絶滅危惧種、2014年にはIUCNの絶滅危惧IB類に指定された(ちなみに国の特別天然記念物であるトキも絶滅危惧IB類に指定されている)。しかし、それからもニホンウナギへの資源保護に対する意識は高まらず、今年の稚魚の漁獲は、愛知県や兵庫県などで、前年比なんとわずかに1%にとどまった。他県でも同様に劇的な不漁に見舞われている。

日本人のあくなき食欲が原因か

では、いったいなぜこのような事態に陥ったのだろうか。

実はウナギの完全養殖は、まだ市場に出回るほどは確立しておらず、現在は消費の99%を天然の稚魚を捕獲して池に入れるという方法に頼っている。未成魚を総ざらいで獲られては、当然ウナギは次世代を残すことができない。

ニホンウナギの一生は謎とロマンに満ちている。親魚は河川で生活した後に海へ下り、日本から約2000km離れたマリアナ海山付近で新月の夜に産卵することが近年確認された。そこから卵は海流に乗って日本沿岸までやってくる。卵は孵化してレプトセファルスと呼ばれる透明な幼生となり、シラスウナギになって河口付近にたどり着く。これが川を遡上し、成長して、また海へと戻っていく。

ところが過剰な漁獲や海洋環境の変動、生息環境の悪化が原因で、絶滅危惧種に指定されるに至ってしまった。

一方、世界に目を向けるとウナギ目ウナギ科に属するのは16種。ヨーロッパウナギは2008年に絶滅危惧種に指定され、ワシントン条約でも2009年、輸出入に許可が必要な「付属書2」に掲載されたのを受け、EUは実質的に輸出入を禁止した。いまだに厳しい輸出規制が敷かれている。

アメリカウナギも同様に激減し、2014年に絶滅危惧種に指定されている。フィリピン産のビカーラ種も、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定を受けたとたんに準絶滅危惧種に指定された。これは日本人がヨーロッパやアメリカのウナギを消費しつくしたあげく、次にフィリピン産にも触手を伸ばしたために予防措置が取られたと噂されている。日本人のあくなき食欲や商売欲が天然資源に打撃を与えているのが悲しい現実である。
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文=井植美奈子

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