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2018.03.14

喘息の治療薬に見る「薬と不妊の関連性」 健康全般への作用が影響

Syda Productions / shutterstock.com

喘息(ぜんそく)の治療薬には、発作を抑える短時間作用性の薬と発作を予防するための長期管理薬がある。呼吸器疾患の専門誌、European Respiratory Journalに先ごろ発表された研究結果では、短時間作用性の薬のみを使用している女性には妊娠しにくくなる傾向が見られるとの結果が示された。

この研究では、第一子を妊娠中の女性5000人以上を対象にアンケート調査を実施。喘息の有無と、妊娠を希望してから実際に妊娠するまでにかかった期間を尋ねた。また、喘息と診断されていると回答した女性には、治療に使用している薬の種類も明らかにしてもらった。

その結果、喘息があると答えた女性の割合は回答者の約10%だった。そして、これらの女性は喘息にかかっていない女性たちと比べ、妊娠するまでにかかった期間が長かったことが確認された。

ただし、使用していた治療薬の種類をより詳細に調べたところ、妊娠しにくくなっていたと見られる女性は、短時間作用の治療薬だけを使用していた人たちであることが分かった。妊娠までにかかった期間は、その他の女性たちと比べて平均20%ほど長くなっていた。また、妊娠を希望してから実際に妊娠するまでに1年以上かかった女性は、喘息ではない女性よりも30%近く多かった。

肺疾患の一種である喘息は、気道の炎症が原因となって起こり、息切れや胸の圧迫感、喘鳴(ぜんめい、呼吸の際に発するゼーゼーという雑音)、咳などの症状が出ることが特徴だ。炎症を起こした気道は、ちりや埃、動物の毛、たばこの煙など、粒子状物質の吸引に対して敏感になる。敏感になった気道は、わずかな刺激を受けただけでも狭くなったり、粘液で詰まったりする。

今回の研究を主導したオーストラリア、アデレード大学のルーク・グルゼスコウィアック博士によれば、喘息やその治療が不妊の原因になると考え得るメカニズムは明らかにされていない。ただ、「喘息は肺だけでなくその他の器官にも炎症を起こす可能性があり、子宮や卵子もそうした影響を受けている可能性がある」という。

喘息の長期的な治療には、免疫系の働きを抑える吸入ステロイド薬が用いられる。一方、短時間作用性の薬は発作を抑えるものであり、免疫機能にまで変化をもたらすことはない。そのため、その薬で発作の症状が緩和されたとしても、肺や卵巣、子宮の炎症はそのまま残っていると考えることができる。

さらに、英キングス・カレッジ・ロンドンのトニー・フォックス薬学部教授は、短時間作用性の薬を使用している患者は吸入ステロイド薬を使っている患者と比べ、治療効果が低い場合があると指摘する。また、吸入ステロイド薬を使えば発作の回数が減少することから、結果として全般的な健康状態が改善すると考えられるという。そうした健康状態の変化が、「妊娠の可能性を高めることに寄与していると見られる」というのだ。

欧州呼吸器学会のミーナ・ガガ副会長は、妊娠を希望する、または妊娠中の喘息の女性は、治療薬の影響が気になるだろうと指摘する一方、「より大規模な複数の調査の結果、喘息薬の場合は使用した方が体にとって安全との結果が示されている」と述べている。

編集=木内涼子

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