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2018.02.27 08:15

クラウドファンディングが「公益資本主義の希望」になりうる理由|大阪大学・安田洋祐

大阪大学准教授、安田洋祐

資本主義は人々の幸せにどのような役割を果たすのか。率直な疑問を経済学者・安田洋裕にぶつける連続インタビュー。(第1回第2回第3回)近年は会社と資本家だけでなく、労働者や社会全体の利益を重視する「公益資本主義」が謳われることも多い。サステナブルな経済システムが実現するために、必要なものとは。
 

岩佐:最近、短期的なリターンではなく、長期的な視点で社会全体の利益の向上を目指す企業の投資信託も増えています。こうした動きに対して、安田先生はどうお考えになりますか。

安田:理念は素晴らしいですが、私はあまりうまくいかないと思っています。長期的に利益を謳うだけで出資されるのなら、根拠のない長期的リターンを謳った詐欺的な資金調達が横行する恐れがあるからです。

もちろん、投資家が企業や事業をきちんと精査することで、根拠の有無や事業の良し悪しを判断できる場合もあるかもしれません。ただ、そのためのモニタリングコストは必然的に高くなるので、資金調達できる企業は限られてくる。最近よく言われている「公益資本主義」の考え方も、この問題点を克服しない限り、絵に描いた餅で終わってしまうのではないでしょうか。

短期的なリターンを指標に出資を決めるというのは、情報を持たない投資家が企業に騙されずに投資し続けるために、長い時間をかけて確立された手段です。この仕組みは確かに、企業行動を近視眼的にするなどの弊害を生む危険性がありますが、情報ギャップを乗り越えて投資を成立させてきたプラスの側面を度外視して、長期的リターンへの謳い文句だけで出資を続けていれば、いずれ大きく失敗するのも明らかでしょう。

だからと言って、公益資本主義が目指す世界が全く実現しないとは思っていません。僕が最も期待をしているのが、クラウドファンディングです。



岩佐:公益資本主義の話でクラウドファンディグが出てくるんですか。

安田:僕はクラウドファンディングに対し、出資における目利きの前哨戦としての機能を期待しています。公益資本主義のネックは、投資家がまともな事業を見抜くのが難しく、出資が無駄になる恐れがある点です。いくら理念が崇高でも、ある程度のリターンを生み出さなければ、従来型の投資戦略に勝てずファンドを大きくすることはできないでしょう。

これに対して、そもそも寄付的な動機が中心であるクラウドファンディングには、金銭的なリターンがほとんど期待されていません。出資者は金銭的なリターンがなくても、新しい挑戦や心意気を買ってお金を出してくれているわけですから、極論をいえば出資したお金が返ってくる必要はないんです。

岩佐:リターンで競っているわけではないので、従来型のファンドと勝負する必要がないということですね。

安田:さらに最近では、クラウドファンディングで成功したプロジェクトに対して銀行が融資を行うという現象も起き始めています 。銀行の目利きとしての本来的な役割を考えれば、「それはお前の領分だ」といいたくなりますけれど…(笑)。ただ、需要があるとわかってから融資すればリスクは減るし、プロジェクト実行者からしてもプロジェクトをさらに大きくするチャンスになります。

最近では銀行とクラウドファンディング会社が業務提携をすることで、融資が難しい人には銀行窓口でクラウドファンディングを勧めることもあるそうです。金銭動機とは違う形で始まったプロジェクトに、金銭目的の銀行が乗っかるというのはこれまであまり前例がなく、将来的には大きなインパクトを生むかもしれません。

岩佐:面白いですね。金銭的リターンを求めないお金がレバレッジを生んでいく。

安田:昔のパトロンや、近年の超富裕層と同じですよね。金銭面を問題にしなければ、道楽として長期投資でも社会投資でもなんでもできるわけです。自分で芸術財団を保有するビル・ゲイツ氏や、テスラで生み出した莫大なリターンを自分の壮大な夢であるスペースXに突っ込むイーロン・マスク氏も、このパトロンモデルと言えます。

彼らのような超富裕層がいない、そして寄付税制や寄付文化の異なる日本では、個人によるパトロンモデルが根付くのは難しいでしょう。クラウドファンディングには、寄付の小口化・大衆化を通じて、「みんなのパトロンモデル」を日本で普及させる起爆剤になって欲しいです。

ビジネスモデルの範疇でビジネスじゃないことを評価しようとする公益資本主義は、僕は危険だと思っています。ですが、利益に関係なく自分で好きなことにコミットするクラウドファンディングはその限りではありません。損得を度外視した「好き」を原動力にしたアクションが、世の中を大きく変えるのではないでしょうか。

岩佐文夫の「次なる資本主義をたずねて」
過去記事はこちら>>

編集=フォーブス ジャパン編集部 写真=松本昇大

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