ビジネス

2018.01.30

資本主義は「損・得」から「幸・不幸」へ|糸井重里・篠田真貴子

篠田真貴子(左)糸井重里(右)

前回の記事で従来の資本主義とあえて逆行した経営を行なっていると話したほぼ日社長の糸井重里と、CFOの篠田真貴子。2017年3月に上場を果たし、「異例」の株主総会を開催した彼らが見据える、次なる資本主義とは──。(第1回第2回

経営者として20年近くを過ごした糸井が、資本との新たな付き合い方を語る。


資本が大きな力を持っていることを、まずは認めなければならない

岩佐:僕はいま、資本主義が本当に人を豊かにするのかどうかを考えています。もちろん、これまで企業はいろいろな問題を解決してきましたが、一方で市場経済の仕組みだけでは社会の問題がすべて解決するわけではありません。企業が株主の期待に応えることが、必ずしも働く人の幸福につながっていない面があります。いまの市場経済のあり方を、どのように捉えていらっしゃいますか?

糸井:正直に言えば、その辺りのスタンスは黙っていてもいいという気もしています。でも、色んなことを感じてもいるんですよ。

その上でまず大事なのは、資本の力を認めることではないでしょうか。僕は東日本大震災以来、毎年3月11日を気仙沼で過ごすことにしているのですが、被災地の復興プロセスで改めて実感させられたことの一つが、お金や量のロジックの物凄さです。こうした巨大なものにしかインフラは作れないということに対しての畏れと期待を強く思い出しました。

岩佐:資本の力を信じることができるようになったということですか?

糸井:企業でなければ出来ないことはたくさんあります。社会に対して開かれた存在だと言いながらも、公僕ではないので何かを私的にジャッジしなければならないのが企業ですし、だからこそできることがたくさんあります。だから一面が火の海になっているときにヘリコプターを持っている民間企業がどこから助けに向かったとしても、それを責める権利は誰にもありません。

岩佐:大量の資本を私的に使うことができる企業だからこそ、できることがある。

糸井:そうです。一方で政治権力が重要なのは、そんな企業を無理やり動かすことができるからです。僕は2000年末から始まったインターネット普及イベント「インターネット博覧会」の初代編集長として、政府主導で半ば無理やり企業を巻き込みました。これから情報社会がくるとわかっているのになかなか動かない大企業に、色々とつくってもらったんです。博覧会自体の評価は様々ですが、あれがなければ日本に情報インフラが普及するのはもう少し遅かったと思います。そうやって大きなポートフォリオを描いて組織を動かす力が、いろんなところで求められています。当時の僕はこういう活動にさほど関心がなかったけど、震災以降はやっぱり大切なことだと思うようになってきたんです。
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編集=フォーブス ジャパン編集部 写真=松本昇大

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