どのような形態であれ、通貨に投資して利益を生み出している人の話を聞くと、私は悲しくなる。こうした投資活動は、世界を全く改善させないからだ。難病の治療法の発見、生活を豊かにする画期的な新技術の開発、雇用の数や質の向上、世界の生活水準の改善などにはつながらず、成功を享受するのは投資家だけだ。
こうした類いの投資は単なる資本主義の一部だと言う人もいるだろう。おそらくそれは正しいのだが、他者を顧みずに自分にとって最大の「勝利」だけを目指すのは完全な利己主義ではないか。私には、この行動が何かの役に立つとも、健全な傾向だとも思えない。
私と同じ考えを持っていたのが、2001年の映画「ビューティフル・マインド」でラッセル・クロウが演じた米国人数学者、ジョン・ナッシュ教授だ。ナッシュは、現代経済学の父と称されるスコットランド人の経済学者・哲学者、アダム・スミスの理論に異議を唱え、次のように述べている。
「アダム・スミスは、グループの全員が自分にとって最も利益となる行動を取るときに最善の結果がもたらされると言ったが、それでは不完全だ。最善の結果がもたらされるのは、グループ内の全員が自分、そしてグループの両方にとって最も利益になる行動を取ったときだ。全員が勝つための方法はこれしかない」
また、経済成長理論への貢献を認められ、1987年にノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学(MIT)のロバート・ソロー教授は「経済成長は技術変革にけん引され、業務プロセスの改善や製品の技術的改善によって動機づけられる」と述べている。「ソローの法則」と呼ばれるようになったソローの発見は、世界の経済成長の約13%が株式・通貨・不動産への投資によってもたらされ、87%は個人や企業が新たな事業アイデアや製品を生み出し市場に導入することで生まれる、というものだ。
本物の富は通貨や株式、不動産のみに投資することで生まれるという考え方や、こうした投資は投資家以外にも効果を生み、他の投資手段をはるかに上回る金銭的報酬が得られるといった考え方を、私たちは早急にやめる必要がある。
私たちの世界で現在本当に必要とされているのは、注意・関心・行動をこうした投資から引き離し、実在的なアイデアや製品の開発、マーケティングに再び向ける根本的な視点の転換だ。新たなプロセスや発明と再び恋に落ち、金への執着を断たなければならない。