現役大学院生が「家族留学」プログラムを始めた理由

新居日南恵 manma 代表取締役社長

優秀な学生ほど、就職活動の際に働きやすさを重視する傾向が高まってきている。

「昔あったコピーの『24 時間戦えますか』というマインドは、今の学生はもう持っていません」。新居日南恵はそう指摘する。現役の大学院生としての肌感覚や、学生に働き方や家族のあり方を学ぶ機会を与える事業が、彼女の考えの根拠だ。
 
新居は半年前、学生が、仕事と家庭の両方を大切にできている社員から話を聞くプロジェクトを企画した。いくつかの企業に提案したが、「働き方について就活生が聞くなんて、やる気がない証拠」と門前払いをする企業がほとんどだった。

「世間がこんなに『働き方改革』と騒いでいて、働きやすさをアピールできないと優秀な学生や若手社員を失ってしまうのに、企業にその意識はない。衝撃を受けました」。
 
一方で、トヨタ自動車やソフトバンクなど、新居の考えに賛同してくれる企業も見つかった。「一緒に活動してくれる企業と共に、世の中全体を動かしていけたらいい」と、新居は話す。
 
新居は、19歳で家族をテーマに同世代に学びの機会を提供する学生団体mannmaを設立した。さまざまな家庭を訪ねて多種多様な家族の在り方を学ぶ「家族留学」の運営を主な活動内容とし、参加者を募った。根底には、「家族」というものへの深い関心と、問題意識があった。
 
東日本大震災が起きた年、新居日南恵は高校1年生だった。震災以降の「絆」や家族との関わりを強調する社会のなかで多感な時期を過ごした彼女は、「キャリアだけではなく、幸せな家庭を築くことも重要」という価値観を持つ。
 
そこで彼女は、ふと疑問を抱いた。キャリア形成に関してはインターネットで情報が溢れているのに、家族関係はヤフーの知恵袋や悩み相談で取り上げられる程度。では一体、どうやって幸せな家族の築き方を学べばいいのだろうか。mannma設立の背景には、そんな原体験があった。

2017年1月、新居はmanmaを法人化させた。学生時代に出会ったある恩人からの助言が、今も新居の背中を押す。「誰にでも同じことができる。でも、あなたが30 歳になった時点で同じキャリアを10 年積んでいる人は他にいない」。仕事に縛られず、家族を大切にできる人が一人でも増えるように。新居は企業・省庁と連携して共に活動を続けていく。

<3つの質問>
1.好きな言葉は?
「 努力に勝る才能なし」

2.リフレッシュ法は?
ヨガ

3.影響を受けた本は?
北村薫『月の砂漠をさばさばと 』、近藤史恵『天使はモップを持って』、吉本ばなな『キッチン』


新居日南恵(におり・ひなえ)◎1994年生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で「家族の組織論」をテーマに研究中。2014年に「manma」を設立。2015年1月より学生が子育て家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデル出会う体験プログラム「家族留学」を開始。日本国政府主催国際女性会議WAW!アドバイザー、内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取り組みに関する検討会」構成員。

文=吉田彩乃 写真=帆足宗洋(Avgvst) スタイリング=石関淑史 ヘア&メイクアップ=大山美智

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