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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

松山大耕/1978年、京都市生まれ。2003年、東京大学大学院農学生命科学研究科修了。政府観光庁Visit Japan大使、京都観光おもてなし大使などを務め、日本文化の発信に貢献している。

日本には7万を超える寺院が存在する。だが、そのうち2万は、住職がいない無住寺院と化しているという。仏の教えをもう一度世に広めようと異彩を放つ、若き仏教界のリーダーたちに迫った。


日本の文化を、もっと国の発展に活かさなくてはいけない。旅行先のイギリスで、松山大耕は繰り返し思った。

当時、松山は東京大学の3年生だった。日本が世界に負けないものは何か。就職を控えダブルスクールに通う同期も多い中、そんなことばかり考えていた。文科2類から農学部へと進み、日本酒の研究をしていたのも、日本固有の食文化を世界に知らせたいという思いからだった。

松山は、京都にある禅寺の大本山・妙心寺退蔵院の長男として生まれた。両親からはっきりと言われていたわけではないが、跡継ぎとして期待されていることを幼い頃から感じていた。「でも、絶対に嫌だと思っていましたね」と松山は振り返る。

「イギリスを旅して思ったんです。 暮らしの中に根付いた伝統的な文化、国民に愛されるロイヤルファミリー。世界中の人たちもそれに魅せられ、やってくる。一方、日本はどうか。当時は日本へ訪れる観光客はまだまだ少なかった」

1980年代、イギリス経済は疲弊し、日本の後塵を拝していた。世界を制した産業革命発祥の地には、バッキンガム宮殿や大英博物館といった昔からある“文化遺産”だけが残っていた。そこから復活を果たすことができた理由を、松山は2つ挙げる。1つは金融を中心とした高度なサービス業を発展させたこと。もう1つは文化の観光資源化だ。

「日本がいくら技術立国としてがんばっても、結局いつか真似され、追い越される。ならば、他国に真似されない“文化”で勝負する時代がやってくるのではないか」

それでもまだ、まっすぐ仏の道へと進むのに迷いはあった。大学院に進学し、一時は研究者の道を考えたが、尊敬できる師匠と出会い、自分にしかできない役割があると決意。卒業後は埼玉県の平林寺で修行を開始。3年半続けた後、生まれ育った妙心寺退蔵院の副住職となった。2007年、29歳のときだった。

退蔵院に帰った3カ月後には、海外からの参拝者に向けた英語の禅体験ツアーを始めた。今でこそマインドフルネスがブームとなり、同様のツアーを行う寺も増えているが、当時は皆無に近い。なぜ、始めたのか。それは「Sight“Being”」の時代の到来を予感していたからだ。


妙心寺退蔵院が行う禅体験には、多くの外国人観光客が参加している。禅体験と組み合わせて、書道体験や精進料理の試食。さらに、春は見事な桜が、秋は綺麗に色づく紅葉が美しい庭園鑑賞も行っている。

「観光の目的は時代とともに移り変わっています。これからは、旅先で得られる精神性が求められる」

松山の言葉を借りて説明しよう。30〜40年前は「Sight“Seeing”」の時代。団体で観光地を訪れ、数多くの場所を見学するスタイルが中心だった。その後、観光の小集団化、個人化が進むにつれ、次にやってきたのが「Sight“Doing”」の時代。観光地を単に見て満足するだけでなく、観光に訪れた地でアクティビティーを楽しむスタイルだ。そして今、前述「Sight“Being”」の時代に入ろうとしている。

「10年ほど前までは非日常的な体験をして満足を得たい人々が中心でした。ここ数年、旅先で得た精神的な満足を、日常に取り入れたいという人が増えているように感じます」

禅体験は今や、観光客だけのものではない。アップルの故スティーブ・ジョブズが禅に傾倒していた話は有名だが、禅に興味を示す企業が国内外問わず急増している。

松山は11年から、トヨタやパナソニックといったグローバル企業のエグゼクティブに対し、禅の思想を教える研修を行っている。そこで教える物事の習得法が「修思聞(しゅうしもん)」だ。

「一般企業では、セオリーを聞き、思考し、実践することで物事を習得します。これを仏教用語で『聞思修(もんししゅう)』といいます。しかし、禅はその反対で『修思聞』。セオリーファーストではなく、実践から始める。理由や効果などは置いておいて、まずやってみる。その中で自ら考え、体験知として教えを習得していくのです」

文・写真=小田駿一

 

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