そんな今だからこそ、モノの見た目には表れない「ストーリー」に目を向けよう。そうすることで、見えてくる「ストーリー映え」するモノが持つ「ある特徴」とは?
最近は「インスタ映え」という言葉も食傷気味。飾り付けられたパンケーキやかわいい子猫に罪はないが、そろそろそういうのは結構という方も多いのではないかと思う。個人的には、見た目は普通でも、その奥にあるストーリーによって価値の高められた「ストーリー映え」するモノに惹かれている。今回、これを「ストーリージェニック」と呼んでみることにした。
写真におけるエフェクトやライティングと同じく、ある種のストーリーもモノの価値を底上げ=盛ってくれる。時には質素なモノすらとてつもなく素晴らしく感じさせることもあり、それをこの国では「わびさび」と呼び、大事にしてきた。
わびさびの神様、千利休に「一輪の朝顔」という有名な話がある。秀吉を屋敷に迎えた際、利休は庭に咲いているすべての朝顔を切り落とし、茶室のたった一輪の朝顔を引き立てたという。一輪しかない朝顔はインスタジェニックではないけれど、めちゃくちゃストーリージェニックである。
もし利休がインスタ映えを狙っていたら、見渡す限り朝顔で埋め尽くしたことだろう。利休の時代から450年ーストーリージェニックな3つの事例を、ご紹介しよう。
事例1:「幻の湖から生まれたワイン」
もともとワインはそのストーリー(歴史、風土、作り方など)を含めて味わうが、さらにストーリージェニックにしてつくられたワインがある。富士五湖のあたりに数年に一度出現する湖・赤池。この幻の湖からワイン酵母を採取、培養し、ワインをつくった。飲んだだけでは美味しいということ以上はわからないと思うが、背景を知ったらすごくありがたく感じる。ちなみに販売と同時に完売。
事例2:「漁師がはきこんだジーンズ」
新品のジーンズをさまざまなリアルワーカー(農家、漁師、大工など)に1年間はきこんでもらい、それを商品として販売。それぞれの職業特有の表情になったデニムは色落ちや状態によって値付けされ、漁師がはいた定価2万2,000円のジーンズには4万8,000円の値がついた。「最新のテクノロジーで絶妙な色落ちを再現した製品」だったら、この値がついただろうか。
働く人のストーリーをデニムの付加価値にする「Onomichi Denim Project」は、広島県尾道市発。
これらはストーリージェニック発想の新しいモノづくりといえるが、一方で、従来からあるモノをストーリージェニックに仕立て、価値を高めるという手法もあるのだ。