ならば、とことん先駆者たちの本音を引き出す方法はないか。そうだ、酒だ。うまい酒を酌み交わしながら、時代を牽引する人たちと腹を割って語り合おうではないか。深海に眠る宝石をつかむように、パイオニアの心の奥底にある宝物をつかみ取れ。それが、新連載「パイオニア酒場」の合い言葉だ。
パイオニアとは、人の背中を見て行動する存在ではない。行動して人に背中を見せる存在だ。そう考えたとき、ある1人の教育者の顔が浮んだ。その人物の名は、坪田信貴。あの大ベストセラー『ビリギャル』(正式名称『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』)の著者であり、「個別指導を超える子別指導」を掲げる私塾「坪田塾」の代表だ。
ビリギャルこと、主人公の「さやかちゃん」の事例だけなら、まぐれ合格だと言い張れるかもしれない。ところが、坪田さんがクラスのどん底にいた学生を志望校合格まで引き上げた実績は他にも数知れない。その背景にある「パイオニア教育論」に迫りたいと考えた。
『ビリギャル』の著者に話を聞くなら、ここをおいて他にない。選んだ店の名前は、「どん底」。新宿三丁目の飲屋街にある有名人も御用達の店だ。約束の時間より少し早めに到着。決して広いとは言えない人気店の人波をかき分けながら階段を昇って二階一番奥の予約席にたどり着くと、そこにはすでに坪田さんの姿があった。
「待ち合わせ時間よりもかなり早く来てしまいました。今日はよろしくお願いします!」そう言って笑顔を浮かべるジェントルマンに迎えられ、まずは二人のビールを注文。さっそくインタビューを始めることにした。
カチンと乾杯。店内に流れるのはホイットニー・ヒューストンの『I Will Always Love You』(映画『ボディーガード』の主題歌)
なぜ落ちこぼれが生まれるのか?
そもそもなぜ教育者の道を歩もうと思ったのか。坪田さんが口を開いてほどなく、ビールが届いた。まずは乾杯。炭酸性の潤滑油を一口喉の奥に流し込むと、淀みなく坪田さんのトークが滑り出した。
高校時代に心理学を学びたいと考えた坪田さんは、アメリカの大学に進学。入学当初は苦学生で、小さなハンバーガーを八頭分して8回分の食事にしたり、月1回だけ食べられる牛丼を楽しみにして、平日は水だけで暮らしたりしながらギリギリ食いつなぐ毎日だった。それでも、なんとか卒業が視野に入るところまで漕ぎ着け、帰国後の進路に思いを巡らせていた。
思えば、当時はまだまだ大学受験の成否がその後の人生を大きく左右すると考えられている時代だった。それなら、将来を決めると言っても過言ではない高校時代に、1人でもでも多くの子どもたちに大きな成功体験を届けることができないだろうか。そう考えた坪田さんは、次第に教育者を志すようになっていった。
教育の道を歩む決意をした坪田さんは、ある1つの問いを立てる。学年ビリの落ちこぼれの成績を飛躍的に伸ばし、大逆転で難関大学に合格させることができるのか。それを解明する上で、坪田さんはまず「そもそもなぜ落ちこぼれが生まれるのか」その理由を考えた。