従って新校舎建設は、ブリティッシュコロンビア州における医療システムの戦略的発展のため、より多くの学生の受け入れと薬学研究の強化を第一の旨としている。建設計画書には「年152人しかとれなかった学生を校舎の拡張により224人とれるようにする」と明記された。
新校舎には大学病院が隣接しており、先端的な治療を施す機会には事欠かない。教育、研究、臨床まで一気通貫した環境は学生にも教員にも魅力的に映るだろう。校舎新築にあわせて教育内容も一新。教室での講義を排し問題解決の実習に重点を置く“反転授業”を導入し、病院や薬局での体験授業を増やした。
医療システムの変革を推進できる人材を育成するために
またチームティーチングに重きが置かれ、薬学外の専門家、例えば臨床医や科学者が一緒にクラスを持つこともしばしば。学部長のマイケル・コフトリー氏は言う。
「学生はみな、臨床での実習に1年をかけます。大きくいえば、健康から科学にわたる様々な分野が入り交じる環境なんです。歯科クリニックに当学部の学生が学んだり、逆に歯学部の学生がうちのクリニックで学ぶこともあるんですよ」(コフトリー氏)
チームティーチングを行う教室。1つのクラスを学内外の複数の専門家が受け持つ
複雑化する医療を背景に薬剤師が担うべき役割は大きく変わった。医師との密な連携、きめ細やかな薬剤のマネジメント等がその一例。ビジネススクールとの連携も検討中である。「卒業生は医療システムの変革を推進できるようになるべき。そのためのスキルを身に付けてほしいのです」(コフトリー氏)
世界中の研究者とのコラボを容易にする最新設備
建築デザインの点では、4階以上のフロアに設けたメザニン(中2階)が特徴的だ。メザニンはアッパー(Upper)とロウアー(Lower)の2層があり、前者には教授用の個室が、後者には大学院生用の個室が並ぶ。彼らが集うラボは個室に囲まれる形で建物中央にレイアウトされた。
セキュリティ上閉鎖的にならざるを得ないラボだが、UBCでは研究室からいつでもラボを見下ろすことが可能。メザニンの導入により視覚的なつながりを担保したというわけだ。医療設備のレベルの高さは言うまでもない。DNAを6時間にわたって分析する「シークエンシングマシーン」、1台100万カナダドルするこの最新機材が2台置かれた。
ラボとアッパーメザニン、ロウアーメザニンとの境界。全体的に視線が通りやすくなっている
AV機器の充実ぶりも学内随一。ミーティングルームにはビデオ会議などを通じて時間と場所の隔てなく世界中の研究者とコラボできる環境が与えられた。
新校舎は州からの出資を受けて建設されたもの。そのため出資が適切だったかどうか、費用面・機能面などから詳細にチェックされたが無事承認される運びとなった。UBCのファシリティマネジャー、ジャマール・クルトゥー氏の言葉を借りるならば「計画書以上の仕上がり」との評価だ。
竣工から3年、カナダのベストデザイン賞であるGovernor General’s Medals in Architectureをはじめ名だたる建築賞の受賞が相次いでいることも、新校舎の成功を確たるものにしている。
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