「敗戦国で唯一、南極観測活動に参加させてもらえた日本のつくったものが、なかなか性能が優れていたんですよ」と磯貝はほくそ笑む。現在建設中の基本観測棟を含め、ミサワホームは実に36棟の建物を供給しているのだという。
こうした技術の結晶は、一般住宅にも応用された。先の“南極仕様の家”の正式名称は「CENTURY Primore」。通常は90mm厚の木質パネルを使用するが、南極昭和基地の居住棟に用いられているものと同じ120mm厚の壁パネルを採用。100年先の暮らしを見据え、ハウスメーカーとしての知恵を結集した住宅だ。
90年代にミサワホームが世界に先駆けて販売した「ゼロ・エネルギー住宅」も、現在、国が「ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」と呼称。2020年までに戸建住宅の過半数でZEHを実現するロードマップを掲げている。
「自動車排ガス規制や省エネ法の規制行政などが、日本の自動車メーカーや住宅メーカーなどの技術開発を促進してきた。ZEHも今後の普及により、地球規模のエネルギー問題解決に一役買うでしょう」
ミサワホームの新たな技術を開発する取り組みは拡大し続けている。沖縄では「蒸暑地研究」が進む。また、電気自動車・自動運転の車が小型化し普及すれば、家や病院の中への乗り入れが可能となり、介護を必要とする高齢者が移動の自由を得られる。医療と介護と住宅の一体化も、次なる大きな課題として挑戦する。
先人たちの知恵に敬意を抱きながら、磯貝は決意を新たにした。
「技術開発における『創意工夫への知恵』がやがて人々の幸福に連なるという信念。それが、戦後の日本を技術立国として支えてきた。これからの住まいづくりにおいても、その信念を受け継いでいきたいですね」
いそがい・まさし◎1956年、愛知県生まれ。79年、京都大学法学部を卒業後、トヨタ自動車に入社。常務役員を経て、トヨタホームの専務取締役に。2014年6月、ミサワホーム副社長執行役員に就任。17年6月より現職。10月にミサワホームは設立50周年を迎えた。