インドといえば昨年11月、モディ首相が高額紙幣(500ルピーと1000ルピー)の廃止を宣言。その影響を受け、インド大手のモバイル決済会社「Paytm」のユーザー数が一気に2億人を突破、インド版マイナンバー「Adhaar」が普及するなど、インドの官民を挙げたフィンテック化の取り組みが急速に進んでいる。
その中でも、AP州は突出している。中南部の都市ハイデラバード(テランガーナ州)をバンガロール(カルナータカ州)に次ぐインド第二のITハブに育て上げたキーマン、J A Chowdhary氏がリーダーシップを発揮し、州政府が「Fintech Valley」を掲げてエコシステムづくりに邁進しているのだ。
州政府が「企業のように」動く
この州にあるVizagという都市を知っている日本人は何人いるだろうか? 聞きなれないその都市では、2020年までに世界的なフィンテック投資のメッカにし、人材を国内外へと輩出し、インド市場への窓口とする、という壮大なビジョンのもと、「Fintech Valley」構想がアグレッシブに進められている。
政府主導というと、お題目のように聞こえるかもしれないが、その実現のためのアクションたるや目を見張る。1年半前に本格始動したこのプロジェクトでは、ブロックチェーンの国際イベントに20か国から約1000人を集め、不動産など州政府の4つの業務にブロックチェーンを導入する検証を終え、またVISA社とともに、人口400万人のVizagのキャッシュレス化実証プロジェクトに着手している。
100を超えるフィンテック利用ケースをつくり、20を超えるパートナーと連携し、一億円を超える賞金付きのスタートアップ・コンテストを計画し、アクセラレーター・プログラムを始め、地元の大学IIDTをインドでトップのデジタル技術大学へするべく画策する……など、次々と手が打たれている。
発表イベントで進行役を務めたFINOLABの斎木健次氏は、「当初は、Fintech ValleyといってもFINOLABの大型版くらいにしか思いませんでしたが、現地を訪ねてみて、そのエリアの広さと、中身の充実さに驚きました」とスケールの大きさを語る。
筆者も、大胆なゴールと行動のスピード感には驚いた。Chowdary氏に「どうしてこんなことができるのか?」と聞くと、リーダーシップ、テクノロジー、ビジョン、そして州政府が役所的でなく企業・産業のように動くことだと話してくれた。これには、大したものだと思うと同時に日本が置いて行かれるのではと危機感を抱いた。