2014年に発表された「伊藤レポート」の執筆も手がけ、CFOとして「エクイティ・スプレッド」を評価指標とし経営を支えている柳氏は理論をどのように実践しているのか。
──ファイナンスの役割とは。
企業価値創造を行う「バリュー・クリエイター」であり、企業価値の番人としての「ゲートキーパー」である。その基盤にあるのが、企業経営者として株主価値を担保・拡大していく受託者責任である「コーポレート・スチュワードシップ」だ。欧米の大手年金基金などの機関投資家らと話をすると、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)も大切だが、日本企業に欠けているのはコーポレート・スチュワードシップだ」と指摘される。この要を担うのが、CFOの役割だ。
──どのように実践しているのか。
機関投資家と「コーポレート・スチュワードシップ」のような本質的な対話ができる関係性を築くまでに長い時間がかかった。前職時代も含めて、15年間で3000件の面談をした。今でも、個人で年間200件、チームでは年間700件面談している。通常は、足元の業績や単年度の業績見通しなどを話すだけで終わってしまう。深い議論には積み上げが大事で、一朝一夕ではその信頼関係は築けない。
また、CFOに就任してから、「CFOポリシー」を作成した。これは全世界統一の財務規範であり、グローバルでマネジメントしている。CFOポリシーに関しては、理論的に正しいことを記載すれば、会社が動くわけではない。正しい財務理論、さらに世界の投資家のアプルーバル、学術的な実証研究の積み上げによる証拠。それら3つで納得感を醸成し、海外グループ会社CFOも信任してくれた。現在は、四半期ごとにグローバルCFO会議で徹底している。
もちろん、ファイナンスリテラシーの高いCEOが企業価値創造の重要性を認知して、CFOをパートナーとして信頼してくれていることが最も重要だ。