ビジネス

2017.11.11

ボルドーのビジネスモデル: ワインの「先物取引」とは

ボルドー・ネゴシアンでの試飲(2017年10月撮影)

前回に続き、ボルドーワインについて。今回は、その特殊なビジネスモデルについてお話したい。

ボルドーワインは、独自の流通システムにより販売される。そのなかでもユニークな制度が、「プリムール」。これは、いわゆる「先物取引」で、ワインが醸造所での熟成を経て市場に出る前、すなわちワインがまだ完成していない段階で購入者が決定する。

主要プレイヤーは、シャトー(生産者)、クルティエ(仲買人)、そしてネゴシアン(ワイン商・卸売業者)。シャトーとネゴシアンを繋ぐのが、クルティエで、商談が成立すると、クルティエはネゴシアンから2%の手数料をもらう。ネゴシアンは、世界中のインポーターや業者にワインを販売し、その際に約10〜15%の手数料を取る。

プリムールの試飲会は、ブドウを収穫した翌年の4月上旬に開催される。世界中からワイン関係者がボルドーを訪れ、それぞれのシャトーのワインを試飲して評価する。当然、この時点では、ワインはまだ熟成途中。経験と知識を基に、将来の味わいと出来を予想する。

プリムールのあと、評論家やジャーナリスト等が、各シャトーのワインの評価を発表する。シャトーは、それらの結果や、市場の状況、そのヴィンテージ(生産年)の評価等を踏まえて価格を決める。

プリムールで販売されるのは、全体の生産量の一部で、格付けのあるワインが主流だ。特に、2005年から2010年にかけて、中国の需要が高まったことも相まって、プリムール価格、そして流通市場での価格が高騰した。ブランド価値のある、高級ボルドーワインは、ワイン投資や投機の格好の対象となった。

かつては、シャトーにとって、プリムールやボルドーの流通システムの利点は大きかった。ワイン出荷の1年半~2年前にキャッシュが手に入ること、ワインが出来上がる前に購入者が決まって所有権が移っていること、自らは生産に専念でき、世界的な販売網で販売してもらえること、などなど。


Chateau Latourの有名な塔とビオディナミ栽培の畑。(2017年10月撮影)

その確立した制度と、ボルドーのネゴシアンの世界的なネットワークから、カリフォルニア・ナパヴァレーの「オーパス・ワン」やイタリア・トスカーナの「サッシカイア」など、ボルドー以外のワインも、この流通システムを使って取引きされている。

2012年、メドックの格付け第1級のシャトー・ラトゥールが、このプリムール制度から脱退することを表明し、関係者を騒然とさせた。ラトゥールのセールス・マーケティング責任者によると、「プリムールの段階で評価をうけ、販売するのは時期尚早。ベストなタイミングまで熟成させ、販売したかった。」とのこと。

古くから続く伝統を壊しかねない行動に、関係者からは、疑問の声も上がった。これにより、ラトゥールは、自ら在庫を抱えることになるが、今後の販売時の値付けによっては利益を最大化することもできるだろう。ラトゥールのオーナーは、フランス人富豪のフランソワ・ピノ―氏。需要が高く、財務体力のあるシャトーならではの決断である。

インターネットの発達等により、他業種と同じく、ワインの流通・販売、マーケティング手法も変わってきている。伝統的なボルドーの流通システムも、変化を迫られているのかもしれない。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文=島 悠里

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