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ニューヨーク在住ジャーナリスト / NYC-based Journalist

マイケル・ルイス(イラストレーション=マグダ・アントニウク)

米国きっての人気ノンフィクション作家、マイケル・ルイス(56)。『ライアーズ・ポーカー』から『フラッシュ・ボーイズ─10億分の1秒の男たち』、映画化された『マネー・ボール』まで、vを次々と出版。ウォール街や超高速取引、メジャーリーグを鋭く斬ってきた。

そんな彼が、今回挑んだのが心理学だ。新刊『かくて行動経済学は生まれり』(文藝春秋刊)では、2人の天才心理学者の友情と葛藤を軸に、人間の直感の不確実性を説く。ルイスが本誌に、新刊の執筆背景から創作活動まで大いに語った。

──『かくて行動経済学は生まれり』の誕生は、2003年に出された『マネー・ボール』と関係があるそうですね。

マイケル・ルイス(以下、ルイス):そうだ。奇妙に聞こえるかもしれないが、今回の新刊は、約15年前に書いた野球の本がきっかけだった。『マネー・ボール』は、米球界の専門家が選手の評価をいかに間違えることが多いかをテーマにした作品だ。選手が、球界という市場によって誤った評価を下されるという構造的な問題を取り上げた。

金融市場にも構造的な間違いがつきものだが、野球市場が選手の価値を見誤るとしたら、いったい誰が正しい評価を下せるというのか。『マネー・ボール』は野球が題材だが、実際には市場の限界を描いており、当時の私にはじつに面白いテーマに思えた。

だが、米誌「ニュー・リパブリック」に載った書評が私の目に留まった。ある学者たちによる寄稿で、「人間はなぜ判断を誤るかという問題は、イスラエル出身の2人の心理学者がすでに研究し、発表している」と書かれていたからだ。そして、その研究にキャリアを捧げたエイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンが、私を『かくて行動経済学は生まれり』の執筆へと駆り立てることになった。

というのも、『マネー・ボール』で私が展開したテーマは、市場の専門家がどのように見立てを誤るのかというものであって、なぜ彼らが誤った判断に至るのかという問いには触れなかったからだ。そもそも、私は2人の名前さえ聞いたことがなかった。

そこで、大いに興味をそそられ、彼らの文献などを読み始めた。そして、彼らが提唱する理論が野球だけでなく、医療診断や法廷など、不確実性に満ちた場面における判断すべてに当てはまることを知った。

──著書では、共同研究者だった故トベルスキー教授(スタンフォード大学)と、02年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授(プリンストン大学)の人間関係がきめ細かく描かれています。

ルイス:理論だけでなく、2人の関係にも関心を持った。彼らは異性愛者だったが、同性愛のカップルだと思われていた。知的な結びつきに伴う情緒的関係もあり、お互いに切り離せない存在だった。プラトニックな愛、とでも言おうか。彼らの考え・理論が2人の「子ども」だったのだ。

次に浮かんだのが、なぜ彼らは、私たちの精神がさほど理性的でないメカニズムの下で体系的な判断ミスを犯すという考えにたどり着いたのか、という点だ。彼らはユダヤ系で、第二次世界大戦後、リスクに満ちた危険な状況下で生きていた。不確実な判断次第で惨事につながりかねない状況が彼らの研究を生んだのではないか、と私は考えた。

インタビュー=肥田美佐子

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