昨年はブラックマネーを撲滅することで汚職が「消えてなくなる」ようにするため、ATMの故障や銀行の外にできる長い行列、そして流動性の枯渇も気にすることなく、500ルピーと1000ルピーの高額紙幣を廃止した。その効果は少なくとも数か月間は続いたが、結果としてはインドの経済と金融市場に停滞を招いた。
モディ首相は10月下旬、再び魔法を使った。財政赤字を1ルピーも増やすことなく、銀行の帳簿から一夜にして全ての不良債権を消し去るための計画を明らかにしたのだ。当然ながら、モディの支持者や金融市場にとっては、ありがたい話だ。
モディは連邦政府が国内の銀行に324億ドル(約3兆3700億円)という「贈り物」をし、銀行に(正確には預金者たち)にその支払いをさせることにしたのだ。つまり、政府が国債を発行して銀行に売り、それで調達した資金を銀行に注入することによって、すでに多額の財政赤字を抱えている政府の負債を1ルピーも増やすことなく、問題を解決するというのだ。
米ロングアイランド大学ポスト校のウダヤン・ロイ教授(経済学)によれば、これによって銀行の「バランスシート上の資産と資本が同時に同額分だけ増えることになる」と説明する。銀行の健全性が向上したように「見せかけるだけ」の、会計上の「素晴らしいトリックだ」という。
「モディ政権は、インド政府を再び財政赤字を増やし続ける状態に引き戻しているとは思われたくない。そのため銀行からの借り入れによって、銀行への資金注入を行うのだ」
だが、これにはいくつか指摘しておくべき点がある。その一つは、国営銀行が抱える不良債権の基本的な原因(リスク管理の欠如)を解消するための改革が伴っていないということだ。
政府が任命する国営銀行の経営陣には、スキルや裁量権、信用リスクの程度に応じた与信管理という原則に従うインセンティブに欠ける場合が多い。そのため、政府が支持層を喜ばせるために出資したがるプロジェクトに融資をして、貸出金を回収できないという結果に終わることになる。
もう一つは、銀行は注入された資金を融資に使うことはできないという点だ。さらに、国営銀行は幅広く見れば政府の一部門だ。銀行の負債の増加は、最終的には政府の赤字予算につながる。
信用格付け機関は、モディが使うようなこうした「魔法」を好ましいとは思わないだろう。