NeedyMedsは医師・看護師・ソーシャルワーカー等フィラデルフィアの地域医療の担い手が始めた草の根の活動からスタートし、マサチューセッツ州に拠点を移して全米をカバーするNPOに育った。活動資金は行政からの補助金、寄付、ウェブの広告収入。医薬品購入補助事業を切り口に「誰にも手がとどく」医療供給体制の実現をめざす。
世界最大の患者ポータルの誕生
患者相互、患者と医療者のネットワーキングを提供するポータルも伸びている。代表はPatients Like Meだ。
希少難病のALS患者のための情報をさがして家族が始めた個人サイトが、科学的な情報提供と真摯な相互サポート体制で定評を得て、世界最初で最大のALS患者ポータルとなり、さらにMS、パーキンソン病、HIV、臓器移植などの希少難病患者向けにサービスを拡大。希少ゆえリアルな生活圏では出会えない同病の患者ともポータル上では情報交換でき、また数少ない専門家のアドバイスも得られる。
逆に、患者同士が生の情報を集積しあって研究者や医師に提供して研究や臨床に貢献している。バーチャルおよびクラウドならではの、物理的な隔たりを乗り越えた事業をダイナミックに構築。11年にはあらゆる疾患の患者にサービスを開放し、世界最大の患者ポータルとなった。14年に組織を再編して株式会社に転じ、17年1月に1億ドルの投資を得た。現在は膨大な自社データをAIを活用して解析しつつ、新たなサービスの構築をめざしている。
米国では65歳以上の高齢者には公的医療保険Medicareがあるが、病院保険、医師保険、処方箋薬保険等の各保険に分かれており、それぞれに掛け金が必要な複雑な仕組みでわかりにくい。また州ごとに格差がある全米をカバーしているため制度改革がむずかしく、日進月歩の医療関連業界のイノベーションに遅れがちだ。
こうした状況を改善すべく、連邦政府自ら実施している実験的な事業がある。全米の医師・病院・保険会社等で構成される有志団体The Accountable Care Organization(ACO)が事業の母体だ。慢性疾患のある高齢者を中心に、地域の医療関係者全員が協力・連携し、リスクの高い重複受診をなくし、ケアの質を高める地域医療連携体制の構築や、HMO(健康維持機構)型の人頭定額前払い制の支払い償還制度で加入者のプライマリーケアを包括的に請け負う仕組みなどを試行している。
西村由美子◎在米医療ジャーナリスト。お茶ノ水女子大学大学院修了。1991〜2004年スタンフォード大学アジア太平洋研究所で医療問題の国際比較研究プロジェクト研究員およびプロジェクトマネジャーを歴任。