「17世紀創業の老舗から、存命中のデザイナーの新しいメゾンまでが幅広く揃っているなんて、こんな組織は他に類を見ないでしょう」と語るのは、プレジデント兼CEOのエリザベット・ポンソル・デ・ポルト氏。ちなみにコルベール委員会ジャパンのチェアマンは、シャネルのリシャール・コラス社長だ。
委員にはジュエリーや銀器、香水、ファッションから自動車、ホテル、ワインまでの著名メゾンが名を連ね、フレンチラグジュアリーの発展を目指して戦略を定めるのだという。
「今回の来日は、我々のプロジェクト『2074、夢の世界』の仕上げが目的です。2074年の世界を舞台にしたSF小説を、東京藝術大学の学生たちがさまざまな手法で視覚化する、これまでにないアートイベントがヴェールを脱ぐのです」
荒唐無稽なプロジェクトだ。フランスの作家たちが書き上げたSF小説は、感染症の世界的な大流行を克服した人類がユートピアを具現するという内容。そのイメージを藝大生が絵画や写真、立体作品で自由自在に表現する。優秀作品3点は、10月にパリで開催されるFIACで展示される予定だ。
「今の時代、未来を悲観しない、ポジティブな考えを根づかせることは、ラグジュアリーブランドの役割の一つだと思います。未来が夢と希望に満ちていてこそのラグジュアリーなのですから」
コラボレーション先として藝大が選ばれたのは、アニメや漫画などのサブカルチャーが発達した日本の学生なら、ディストピアからの救済というイメージを巧みに視覚化できると考えたからだ。
「コルベール委員会の役割は、他国と文化的な対話を試み、相互の理解を推し進めること。文化の優劣をあらわにするのではなく、交流するのが目的なのです。したがって、相手国によってプロジェクトの内容は異なります。同じプロジェクトを他国でも展開することはありません」
フランス的なるものをただ押しつけるのではなく、共感できるものを提示することで、まずはソフトに、やがて根深く受け入れられようとする。これは日本としても学ぶところの多い、ごく洗練されたフランス的外交術ではないだろうか。