「パパからこっぴどく叱られたのが、きっかけだったよ」。フットボールで鍛えたたくましい二の腕をさすりながら照れ笑いをする。リチャードは高校を卒業すると同時に、日本の大手外食企業の手掛けるレストランに就職した。たちまち頭角を現し、西海岸の店舗網を統括するマネジャーにまで昇進した。
「てっきり褒められると思ったのにとんでもない。Shame on youだって」。とんとん拍子に出世している息子に、恥を知れ、と怒ったというのだ。
「人に使われてどこが面白い。今の会社は辞めろ。事業は自分でするもんだ」。父親のジェフェリーは京都出身で、関西の大学を卒業するや、迷わず着の身着のままで渡米。苦学してコロンビア大学大学院を卒業すると、米国政府機関勤めを経て起業した。
「事業は夢、事業は人生」と語るジェフェリーは、今年、インドで日本の「かわいい文化」を事業化しようと、デリーに現地法人をつくった。真剣にコスプレイベントの資料をチェックする彼は、70歳である。
「リチャードに言ってるんだ。君と俺のどっちが早くナスダックに上場するか競争だってね」。
米国で志ある人士は、人種や年齢、性別に関係なく起業、上場を目指す。シリコンバレーがその代表格だが、こうした動きはIT産業に限られるものではない。飲食であれ、アグリであれ、まだまだアメリカン・ドリームは健在だと感じる。
それを雄弁に物語るのが、米国人の家計ポートフォリオである。彼らの金融資産の半分以上が株式などの有価証券で、現預金は1割程度に過ぎない。リスクもある代わりに収益も期待できる証券が、資産形成の主軸になっている。
真逆が日本人だ。有価証券は1割強に過ぎず、現預金が半分以上で、この岩盤は過去40年間ほとんど崩れていない。現預金に偏った資産構成では超低金利時代に対応できないし、資金の出し手である家計が株式などリスク性成長資金にお金を出さないようでは、経済が停滞したままになってしまう。
政府は金融ビッグバンや市場型間接金融への誘導、NISAの創設・拡充等々を繰り出し、現政権の成長戦略の柱にもなっている。証券業界を中心に投資教育にも熱心だ。それでも、家計ポートフォリオは変わらない。株など持っていない、と自慢する政治家が少なくない社会である。就活の若者たちは上場有名企業に殺到し、リチャードのようなタイプは突然変異種に近い。