「AIロボットで学習意欲を高める」
一方、スペインの「国立遠隔教育大学」に在籍する研究者らは、AIを搭載したロボットで子供の学習意欲を高める試みに挑戦中だ。センサーなどが搭載されたロボットで学習中の子供の心理状態を検出し、それを人工知能で分析。学習効率の向上に役立てようとしている。
研究チームはまず、学習を行う人間、なかでも幼い子供の教育効率は心理状態に影響されやすいという研究結果を前提に、主に3つの心理状態をAIロボットで認識・分析することに重点を置いてきた。その心理状態は、「集中している」「気が散っている」「受身」の3つだ。
研究チームが開発したAIロボット「MONICA」は現段階で、子供がキーボードの打つ仕草や口の動きを読み取り、その心理状態をデータとして分析・把握。それらデータは最適なフィードバックを選択するアルゴリズムへとリンクされ、最終的にAIロボットが発話やジェスチャー、つまりアウトプットを通じて、対象に学習への興味や動機付けを促す仕組みとなっている。
なお、心理状態が異なる小学生ボランティア2名を対象にこのAIロボットを使って行った実験では、それぞれが学習を楽しめる状況を作り出すことに成功したという。ロボットと接している最中、子供たちがストレスを感じている様子はなく、人間の教師から多くのことを学んでいるときのような心理状態であることが確認されている。
教える側にもメリットの可能性
今後、教育現場に高度な人工知能が普及すれば、そのメリットは多岐にわたるだろう。やむ得ぬ理由で不登校や学習放棄の状態となり、学習にディスアドバンテージを抱えてしまった人々にとっては力強い“支援者”になるはずだ。また教わる側だけではなく、教える側=教師にも恩恵は及ぶ可能性がある。
日本国内の公立小中学校の教員の1日当たりの勤務時間は、約11時間(2017年/文部科学省)という統計が発表されているが、これは10年前より30~40分ほど増えたという。主な理由は授業数の増加だ。多くの学校では、「過労死ライン(労災認定基準で使われる時間外労働)」を上回る勤務が避けられず、身体的負担からうつ病を発症し、教育現場を離れる教師も後を絶たない。AIによる効率的な学習方法の発見が可能となれば、そうした教員たちの負担も減らすことができるようになるかもしれない。
人間の能力を啓発するため、また個人化された教育の実現や、教育業界が抱える課題解決という文脈で見たとき、人工知能には多くの可能性が秘められている。
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