「昔の日本軍みたいだ」。新卒の僕らが夢を持って入社した、誰もが知る大企業で、先輩はそうつぶやきました。
なぜこの会社はかつての勢いを失い、希望退職者を募らなければならないほど衰退したのか……。先輩の言葉の意味が気になり、本書を手にとったのはもう10年も前のことになります。
本書は「なぜ日本は敗けたのか」を探究するため、日本軍の組織特性にスポットをあて、ミッドウェー作戦やガダルカナル作戦など、大東亜戦争史上の数々の失敗を深く分析しています。小池百合子東京都知事をはじめとした各界のリーダーから「現代の会社組織にとっても教訓になる一冊」と推薦されたり、初版から30年以上経った今でも書店の店頭に並び続けていたりするのは、私たち日本人が持つ「本質」を的確にとらえているからなのでしょう。
僕も本書を読み、新卒で入った会社がなぜ衰退に向かったのかが腑に落ちたような気がしました。
著者が日本軍の失敗した理由のひとつとしてあげたのは、「参謀本部でシミュレーションし、米国に勝てないという結論に至ったのに、戦争に突き進んでしまったこと」です。
ダメだと気づいても空気を読み、途中で引くことができない上に、元来慎重でありながら、最後は楽観的になんとかなると突き進んでしまった日本軍。これは、時代がかわった現代でも、私たち日本企業が陥りがちな「日本人の集団としての性質」ですから、それを理解した上で、トップが決断を下すべきだと思います。
しかしながら、米国企業などに比べると日本企業は、トップの責任がとても曖昧です。「水を差す」ということわざが示すように、一度始めたことを途中でやめてしまうのを良しとせず、その結果、やめ時を逃がして会社に損害を与えてしまうことがあります。日本企業による不正会計や隠ぺいが後を絶たないのも、その一例でしょう。
社内の調和は大切ですが、厳しさが必要な場面もあります。時に称賛される「日本人らしさ」が裏目に出ることも理解して、同じ失敗に陥らないために、私たちは常に準備をしておく必要があるのです。
物欲に乏しいと言われる最近の若者たちを何かとネガティブにとらえ、「さとり世代」と呼んだりしますが、私は彼らの中に強さを感じることがあります。
モノに憧れ、物欲があったからこそ、モノづくりに重きをおいてきた僕らの世代とは違う。モノがあふれる時代に生まれ育った彼らは、モノ以外に価値観を感じています。会社に依存せず、個々が強くなる必要性も理解しています。その世代がビジネスの中心になった時こそ、日本が大きく変わるチャンスなのかもしれません。
title:失敗の本質 日本軍の組織論的研究
author:戸部良一 他
data:中央公論社 762円+税/413ページ
直井聖太(なおい・しょうた)◎2005年、明治学院大学を卒業。08年BEENOS株式会社入社。社長室にて輸出Eコマース関連の新規事業を担当し、tenso株式会社の立ち上げに参画。14年より現職。クロスボーダー事業を軸とした新グループ成長戦略を推進し、次世代総合商社の実現を目指す。