入山:人材育成についてはどうでしょうか。「必要な人材がいれば、外部から採用する」という発想の米系企業と比べ、「人材を育てる」という意識を持つドイツ系企業。人材育成への考え方は、日本企業と共通している点も多いように思います。
須田:人材育成においても、「ベストチームを編成」という人材戦略のもと、「人材を育てよう」という言葉だけで終わらないことを重要視しています。
まず、社員が年複数回、個人の強みと改善点を振り返り、上司と対話の機会を持つ「エンプロイー・ダイアログ」という取り組みがあります。ここで重要なのは、上司がただヒアリングするのみならず、そこで描いた部下のキャリアパスの実現を支援すること。
例えば、部下が希望するキャリアの実現に近づくポジションがあれば、国内に限らず世界中の拠点も含めて上司は可能な限りローテーションに出してあげなければなりません。その部下が部署にとって欠かせない人材であったとしても、希望するキャリアパスを聞く機会を用意した以上、経営側は実現の可能性を考えなければなりません。「有言実行」が原則です。
「エンプロイー・ダイアログ」を実施するのは、社員に「自分自身がキャリアのドライバーとなって、成長する」という視点を持たせるためです。「マーケットバリューの高い人材」、つまり、どんな状況でも価値を創出できる「プロフェッショナル」を目指してもらうことこそが、真の目的です。
日置:ドイツと日本での「従業員を大事にする」ということの意味合いに違いが表れていると思います。変化の芽は見られているものの、日本企業の根っこにはまだ終身雇用が慣性として残っており、抱え込むことがイコール、大事にしているという感覚があるのかもしれません。
もちろん、内部成長によって従業員のマーケットバリューが高まっているならよいのですが、彼らが「社内外を問わない未来」を想定した場合にも本当にそうなのか。この視点を持つことで「キャリアパスの実現を支援する」ことができるというわけですね。
須田:日本企業もドイツ系企業も、「会社の中の社員の関係性を良くしましょう」という発想は共通しています。その良い関係性を、結果に繋げるためには、明確なKPIを設定することがやはり重要です。
それは、マサチューセッツ工科大学元教授のダニエル・キム氏が提唱した「成功の循環モデル」を参照にして考えると、より明確になります。このモデルは、組織が成果を出す過程を、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」が順々に高まるサイクルで分析するものです。
日本企業の場合、業務外のコミュニケーションや優秀な人材によって、「関係の質」と「思考の質」は優れている。しかし、その次のステップである「行動の質」に繋げる仕組みづくりが必要なのかもしれません。このプロセスを橋渡しするものとして、資本コストのようなKPIの導入は、効果的だと思います。
入山:「選択と集中」を推し進め、競争力のある事業で勝負することの多い日本の化学企業。一方で、BASFは「フェアブント」(ドイツ語で「統合・つながり」の意味)を理念として掲げ、「総合化学会社であること」を企業の強みと考えていますね。なぜでしょうか。
須田:自社で「川上」から「川下」まで、全ての生産工程を持っていることこそが、BASFにとって「イノベーションの源泉」です。
例えば、BASFでは人口増加や都市化に伴う課題の解決に化学が貢献できる分野として、交通、消費財、建設、農業など、7つの成長分野を設定。総合化学会社であることを活かせば、そのターゲットに全社をあげてフォーカスし、化学の力で「良い関係」をつくることが可能です。また全行程を持っているからこそ、外部にある、あらゆる新技術に対して、その将来性を見出し、柔軟に取り入れることができるわけです。