膣内に射出された精子は、子宮の中を通って卵管へと進み、尻尾のような部分(尾部)を鞭のようにしならせながら勢いをつけて卵子に突入する。
この時の「キック」は、「CatSper」と呼ばれる精子のカルシウムチャンネルが、卵子から放出されるプロゲステロンによって活性化されて起きるが、オリーブやマンゴーに含まれる「ルペオール」と、タイワンクロヅルやエスピニェイラサンタに含まれる「プリスチメリン」がその働きを抑制することが明らかになった。
タイワンクロヅルは漢方では避妊薬や関節リウマチの薬の原料として知られ、またエスピニェイラサンタもパラグアイで昔から避妊薬のハーブとして使われてきた歴史がある。
先月上旬に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された論文の主執筆者で、同大学の分子細胞生物学者であるポリナ・リシュコは、民間療法で使われている避妊薬を調べる中で50以上の成分をテストし、前述の2種類に行き着いた。
リシュコは米版「WIRED」の取材に対し、「今すぐにでも、より効果的で優れた緊急避妊薬を作ることが可能です」「流通している避妊薬の10倍以上の効果があるだけでなく、受精そのものを防ぎます」とコメント。受精が成立した時点でヒトの命が始まると考える人々にとっても、受精卵の着床を防ぐアフターピルより受け入れやすいのではないかとリシュコのチームは推測する。
現在はサルを使った実験中
「WIRED」の記事によると、リシュコのチームは、今回発見した成分が含まれる経口避妊薬や避妊リングの開発を目指しており、数年内に成分を商品化するつもりだという。現在、オレゴン州でサルを使った体外受精の実験を行っており、資金が調達できれば臨床試験に進む予定だ。
2種類の成分は、既存の避妊薬に比べて副作用が圧倒的に少ないことも利点だ。リシュコは大学のプレスリリースで次のように述べている。
「アフターピルに含まれるレボノルゲストレルの約10分の1という低濃度で避妊効果が得られます。次世代の緊急避妊薬として期待できることから、私たちは『分子コンドーム』と呼んでいます」「植物由来で害がなく、ホルモンも含まれず、濃度も低い避妊薬で受精を防ぐことができれば、それはより良い選択肢となるはずです」