カンヌでは、ベンチに座って上映スケジュールとにらめっこしているだけで、見知らぬ人にそう声を掛けられる。「途中から参加しているから、まだ何とも。そちらは?」と聞くと、「うーん、そんな最高な作品ばかりじゃないからね」と浮かない顔。
今年のカンヌでは、この「うーん」という返事が返ってくることがやたら多い。後半戦に入った24日の時点で評価が高いのは、ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフの『Lovelesse』(過去の作品に『父、帰る』『裁かれるは善人のみ』など)と、スウェーデンのリューベン・オストルンドの『The Squere』(日本では『フレンチアルプスで起きたこと』が話題に)の2本となっている。
コンペティション部門に出品された作品の評価を知りたい時に手を伸ばすのが、英国の映画専門誌『SCREEN』とフランスの映画専門誌『le film francais(ル・フィルム・フランセ)』だ。
どちらも紙媒体にも関わらず、公式上映の翌日には星取り表が更新されるという驚異のスピード感。カンヌ映画祭期間中の特別版として、基本的に毎日、無料で配布されている。
『SCREEN』は、欧米を中心とした各国の新聞や雑誌の映画担当による評価が「★」の数で記されたうえで、その平均値が出される。4点満点で、上記の2作で言えば、前者が「3.2」で後者が「2.7」。平均値1点台の作品も少なくない。一方の『ル・フィルム・フランセ』は平均値を出さないものの、フランスの新聞や映画雑誌の星取り表となっており、この二つを比較するのも面白い。
ちなみに、河瀬直美監督の『光』(5月27日、日本公開)は、『ル・フィルム・フランセ』では熱狂的に支持する批評家もいれば、まったく支持していない批評家もおり、割れる結果となった。とはいえ、下馬評が高い作品とは全く異なる作品が賞を受賞するのもまたカンヌ映画祭なのだが──。
上記の2誌に限らず、『ル・モンド』『リベラシオン』『フィガロ』といったフランスの日刊紙も、主な上映作品の評を翌日には掲載している。映画祭期間中に行ったインタビューも即日掲載だ。
どの媒体もウェブの更新も盛んだが、重要な記事は必ず「紙」に間に合わせようとする。「映画」という文化そのものに対する真摯な姿勢、そして紙媒体としての意地と底力を垣間見たような気がする。
メイン会場近くのビーチでは、日光浴する人々も。大きな海と太陽を満喫できるのも、カンヌならではの魅力。
21時半からは、メイン会場近くのビーチで屋外上映「シネマ・ド・ラ・プラージュ」が開催されている。 こちらは誰でも入れる上映だ。