カンヌ映画祭に通うジャーナリストやバイヤーの多くが、そう口にするのを聞いていた。
実際にカンヌ取材を試みようとすると、そのためのプレスパスの取得から一苦労だ。パスの申請受付は毎年1月、2月にスタートし、企画の内容、メディアの情報、編集長のサイン入りの取材申請書、そして1年以内に書いた映画に関する署名記事3本のPDFとともにカンヌ映画祭事務局に提出しなければならない。
こうした資料を一揃えにして提出し、そこから待つこと一週間。申請に通ったとメールで連絡が来るのだが、これで何でも取材できるのかと思うと大間違い……。
プレスパスは、何色にも色分けされており、その色によって記者会見場や上映へのアクセスの可否が決まってくる。これが、「カンヌは格差社会」と言われる所以だ。ちなみに、自分が何色を手にするかは、カンヌに着いてバッジを受け取った瞬間に初めて分かる仕組みになっている。
その「位」は上から白、ピンク、ブルー、イエロー。色分けの基準を、カンヌ事務局が事細かに発表しているわけではないが、新聞が一番上の白、以下、雑誌、オンラインメディアと続く、言われている。オールドメディアが最優先なのは、ヨーロッパらしい。
それに加え、何年間カンヌに通っているかも大きく影響するようだ。雑誌とオンラインで申請し、今年が初カンヌだった筆者のプレスパスは「青色」だった。
とはいえ、こうした面倒なプレスパスを取得しなくても参加できる上映もある。
映画祭と並行して行われる「批評家週間」「監督週間」部門の作品はチケットを購入したり、無料で鑑賞できたりもする。席に空きがある場合のみ入場することができるので、なんとか席を取ろうと、上映開始の1時間前には並んでいる人々も多く見かける。
映画『Oh Lucy!』の上映に並ぶ人々
今年の「批評家週間」で上映された平柳敦子監督の『Oh Lucy!』の上映では、「映画を学んでいる」という20代の若者の集団と一緒になった。彼女たちは「毎日映画を3本見て、なかでも気に入った1本の批評を書いて先生に提出するの」と口にしていた。
日本ならではの人間模様を描きながらも、時にまるでアメリカのロードムービーのような輝きを放つ『Oh Lucy!』への観客の反応は素晴らしく、劇場で何度も爆笑が起こり、皆で高揚感を共有していた。
(右から)『Oh Lucy!』の平柳敦子監督、出演者の寺島しのぶとジョシュ・ハートネット、プロデューザーのハン・ウェスト
上映が終わると、先の映画専攻の学生たちも、「どう思った? 私は大好き」と興奮気味に話しかけてきた。
格差社会ではあるけれど、一般の映画好きを受け入れる土壌があり、彼らを育てようとする姿勢があるのもまた、カンヌ映画祭なのだ。