中国ではいま、都市部を中心に大病院への医療資源集中が起こっており、患者たちは診療環境の劣悪さに悩まされている。医療従事者を取り巻いた職場環境も未整備な側面が多い。加えて、病院の過度な商業化、医薬品の高騰による診療コストの増大は社会問題となって久しい。上記の言葉は、そのような背景から生まれた言葉で、政府としても早急に対応を求められている。
そんな中国の診療環境の悪さを表す例のひとつに、“待ち時間の長さ”がある。まず治療受付や治療のために長蛇の列ができるのは日常茶飯事。さらに、治療前の事前会計のために検査を複数行う場合は、都度、列の後ろにまわって支払いを済ませる必要がある。診療券を取るために徹夜組が出たり、1日がかりで診療に来る患者も珍しくない。
これらの状況に対応すべく、中国政府は2016年6月にひとつの対策案を発表している。「健康医療ビッグデータ応用及び発展に関する指導意見」がそれだ。
概要としてはまず、各地域毎に適切な医療資源分配をするための人口分布データ、年齢動態などの定量データを収集すること、各医療機関における症例や臨床データ蓄積を促進することなどが掲げられた。つまり、ビックデータを活用して医療発展に役立てようという算段だ。
また患者からの診療予約、受付から支払いまでの円滑な対応を行うための個人基礎健康データ、受診履歴や容態変化および医薬品の使用歴や医療保険情報などを集約・関連付けを行い、電子決済化により”スマート健康医療”の実現を目指していく方針も掲げられた。
将来的にはビッグデータ化されたそれら情報を分析することで、医療制度の立案や衛生改善、またデータ科学を生かした新たなサービス創出を見据えているという。
政府の方針を受け、医療の課題をAIで解決するというスタートアップが2015年に立ち上がっている。北京に本社を置くDeepCare社だ。
同社は病理診断をディープラーニングで行うシステムを開発している。ビジネス展開の第一段階としては、医療機器メーカーと協業。低価格で統計や診断を実現する演算システムを提供し、ハードウェアの人工知能化に取り組んでいる。
また、病院には症例データを効率的に蓄積できるデータ化クラウドプラットフォームを提供。これを利用することで、医者は診断にかかる時間の短縮しつつ、誤診率も低下させることができるとされている。患者の立場に立てば、地方病院でも優良診断を受けることが可能になる。
同社のチームメンバーはハーバード、スタンフォード、カーネギーメロンなどアメリカの有名大学をはじめ、北京航天航空、中山、復旦など中国名門校出身のエリートで固められており、今後もトップ校出身のエンジニアや医学博士を募集するという。
ビジネスモデルもユニークで、ソフトウェアをサービスとして毎年の使用料を支払う通常モデルに加え、ソフトウェアを利用して取得した一定量のデータと引き換えに無料もしくは割引価格でサービスを利用することができるモデルもある。
電子決済が急速に広まる中国。巨大人口から取得できるデータ資源を強みに、医療分野でのスマート化を進めることができるのだろうか。注目したいイシューだ。