ここ数年でニューヨークのテックシーンは大きく変貌した。一時的な熱狂は去ったが、より落ち着いた段階に入ったと言える。2014年と2015年にはニューヨークから相次いで企業価値10億ドルを超えるユニコーンが生まれた。フィンテック関連の「OnDeck Capital」と、ハンドメイド製品のマーケットプレイスの「Etsy」の2社が上場を果たした。
しかし、2016年には一件のIPOも起こらなかった。だからと言って低迷している訳ではなく、2016年に資金調達を行ったニューヨークのテクノロジー企業は421社に達し、合計の資金調達額は95億ドルに及んでいる。また、買収でイグジットを果たした企業は109社あり、買収額の合計も50億ドルを超えている(Built In NYCのデータ)。
ここから見えてくるのは、ニューヨークのテック企業らが伝統的な企業と入り混じりつつある状況だ。企業や投資家たちはかつてのように、たった一つのユニコーンを生むために、無数の失敗を重ねるような行動をしなくなった。その代わり、安定的に収益を生む金の成る木を探すようになったのだ。
生鮮食品を扱うFresh Directや、コワーキングのWeWork、さらに保険企業のOscarといった新興企業が続々とニューヨークから生まれている。
テック系のスタートアップ企業らが拠点とするのは、かつてはシリコンアレーと呼ばれる23番街が中心だったが、今ではハーレムやブロンクス、クイーンズまで広がり、ブルックリンで全く新たな動きも始まっている。
シリコンアレーでは今でも伝統的なテック業界(フィンテックやアドテク等)の企業が中心で、ブルックリンではアーバンテックやクリエイティブテック領域の企業、クイーンズではフードテックやバイオテクノロジー関連、さらにハーレムやブロンクスでは社会貢献型の新興企業が多いという特徴もある。
ニューヨークのテック企業のエコシステムに訪れた最も重要な変化は、テックと伝統的企業の境界線が曖昧になりつつある事だ。アドテクは従来の広告業界に溶け込んでいるし、建設テクノロジーも建設業界の一部だ。かつてエンターテインメントテックと呼ばれた企業らも従来のエンタメ業界に組み込まれている。
ここまで述べてきたトレンドはテック業界の成熟ぶりを示すと同時に、ニューヨークのテクノロジー業界が安定的成長を遂げていることを示している。