ビジネス

2017.04.13 08:00

安定的な成長を続けるユニリーバの「強さの源泉」

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス、山崎一秀代表取締役

1930年の創設以来、国や文化をまたいでビジネスを行ってきたユニリーバ。英国とオランダに本社を持つ欧州企業の同社は、現在世界約190カ国に展開。世界最大級の消費財メーカーで“真のグローバル企業”だ

2016年よりユニリーバ・ジャパン・ホールディングス代表取締役を務める山崎一秀は、98年にニッポンリーバへ新卒入社して以来、ユニリーバで一貫してキャリアを重ねてきた。

早稲田大学ビジネススクール准教授の入山章栄とデロイトトーマツコンサルティング執行役員パートナーの日置圭介は、山崎との鼎談によって、「日本企業で不足している『ビジョン』が、ユニリーバでは既に“組織のDNA”に昇華している」という共通認識を得たという。

日本企業が学ぶポイントとして、日置は「歴史あるユニリーバといえども、トップの熱心なコミットメントなしには、創業時のビジョンの再興と普及がなかったこと」、入山は「『ビジョン』を推進する目的を明確化すること」を挙げる。

入山:「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」という確固たるビジョンを持つユニリーバ。一方、多くの日本企業にとっては、“ビジョンの不足”は深刻な経営課題となっています。なぜ、ユニリーバはビジョンの明確化に成功したのでしょうか。

山崎:「ビジネスとサステナビリティの間にトレードオフ(相反)はない」と言い切るユニリーバCEOのポール・ポールマンが、提唱しはじめたのが「環境負荷を減らし、社会に貢献しながら、ビジネスを成長させる」というビジョンであり、成長とサステナビリティを両立するビジネスプランとして「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)」を導入しています。

ただ、弊社のルーツを振り返れば、ユニリーバの前身リーバ・ブラザーズが1880年代の英国で「サンライト」という石鹸を発売したことから始まります。「サンライト」は当時の英国に、清潔・衛生という新しい意識と習慣を根付かせました。

日置:「社会的課題に取り組む」という創業時からの経営精神が、現在にまで引き継がれ、ポールマンがトップになり明確になったわけですね。ただ、企業が社会に提供する「価値」を言語化し、組織中で普及させることは、簡単ではありません。どのようにして実現したのでしょうか。

山崎:例えば、「日本国内の全事業所で使用する電力の100%再生可能エネルギーへの切り替え」や「農作物の100%持続可能な調達」といったアクションを起こす際、その進捗や今後のプランを全社員ミーティングや毎月社員に配信するCEOレターで共有することを徹底しました。ビジョンの定着は、こうした断続的に行った地道な取り組みの成果だと言えます。

入山:日本企業にも遡ることのできる創業時の原点は存在します。ただ、創業の哲学が“神棚に置かれて”触れ難いものになっているか、社員が創業哲学に勝手な解釈をしてしまい、ビジョンとして共有されていないケースが目立ちます。

日置:ビジョンの社内への普及に向けて、何か特別な仕掛けを用意しましたか。

山崎:ユニリーバには、「サステナビリティ部」のような、制度や部署は存在しません。普及したのはグローバルCEOによる「トップのコミットメント」があったからです。サステナビリティが「付属品」じゃなくて、「メインの事業戦略」であると、常に打ち出し続けた。ポールは実際、サステナビリティの話を始めると止まらないんです(笑)。

日置:グローバル企業のトップはタウンホールミーティングなどの「口伝」を多用する傾向にあるので、欧系、米系問わず、グローバル企業に共通するビジョン普及のスタイルと考えられるでしょう。

また、企業活動を環境・社会・経済という3つの側面から評価する「トリプルボトムライン」の観点から見て、欧州系の企業、特にユニリーバは、一見真逆に見える「持続性」と「収益性」が全く問題なく両立できています。売上高は安定し、営業利益率も安定的に高水準。その要因はどこにあるのでしょうか。

山崎:消費者の間でのサステナビリティや環境への意識の高まりから、弊社の様々なブランドの中でも、サステナビリティをより積極的に打ち出しているブランドの方が、30%速く成長しています。また、長期視点で見ると、持続可能ではないソースから調達することには、いずれビジネス自体が成立しなくなるリスクが伴います。短期にコストがかさむとしても、長期でのビジネス成長を目指した方が、経営上は間違いなくプラスでしょう。

入山:その「長期」とは、どのくらいの期間を想定しているのでしょうか。例えば、米デュポンの場合、専門家を集めた「100年委員会」に100年後を予想させ、そこから逆算し直近の計画を構想する経営スタイルをとっています。

山崎:目先の3年などではなくて、必ず10年以上のスパンで考えています。例えば、パッケージに関しては、25年までに「リユースもしくはリサイクルできるもの」、30年までには「カーボン・ポジティブの実現」と目標を設定しています。同時に、「サステナビリティ」というビジョン自体に普遍性がある以上、具体的な年数の議論が、必須だとは思っていません。

日置:ユニリーバの場合は、普遍的なビジョンと明確な目標設定の両輪で、長期視点を支えているわけですね。
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文=山本隆太郎、写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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