入社で緊張し、転勤で気合が入り、卒業で泣き、新しい出会いに笑顔がこぼれる。そんな季節が一般的な春かもしれない。何と言っても桜の季節は日本では人生の節目なのだ。
花見の時期に合わせて、カフェでも雑貨店でも「桜色」がビジネス戦略として押し出されてきている。その中でも特に、アパレルが一番色に敏感な業界ではなかろうか。毎年のシーズンコレクションには流行があり、春の雑誌はこぞって色特集である。
美容の世界でも「春色」には流行があり、ヘアカラーチェンジや、メイク、ネイルなど、いろんな商材が動く重要な季節である。寒く重い冬のワードローブを変える楽しさ、軽くする楽しさとあわせて、ヘアカラーも明るく、メイクも春色になる。
そして定番色の春色も、知らないうちに毎年すこしづつ進化しているのだ。
春色とはそもそも何だろうか? 今年の春色はどのピンクなのか? 去年とは同じではないのか? どうも毎年が違うピンクが台頭してくる。色もテクスチャーも少しづつ変化している。そしてこの季節の流行色は、実はある人たちが決めて、世界に発信しているらしい。
日本やフランス、アメリカが参加する国際流行色委員会というパリにある団体が、流行になるような色を徹底して事前に研究し、色の流行を決めている。2年後に流行になる素材や雰囲気を決め、2年をかけて世界のアパレル会社や自動車メーカー、インテリアメーカーなどに発信していく。この春に流行っているピンクというのは、パリで2年前に決められた色が、計画的に流行になっているのだ。
ただ、これは必ずしも悲観的なことではないらしい。いくら提案があっても、各国の各メーカーがこの委員会の提案するカラーパレットに従う必要はなく、文化やマーケットも違うので、全世界が同じ色になることもないだろう。
とはいえ、僕らは流行というものを色で認識しているのかもしれない。過去の色の記憶を個人的に思い出してみると、環境破壊が社会問題になってくるとアースカラーが登場し、テクノロジーの時代到来だと社会が尖ってきたりすると、シルバーやネオンカラーが街で市民権を得ていた気がする。そんな印象は誰でもあるのではないか。
ビジネスの観点で考えると、アパレルメーカーが使う布地や革生地の生産者の数は必然的にデザインメーカーよりも少なくなってくる。例をあげると、異なる靴メーカーでも、同じ靴紐通しの丸穴金具メーカーや靴紐メーカーというのが現実である。ワッペンをつくる会社はいろんなブランドの刺繍ワッペンを請け負っている。
そうなると、ある程度の流行のガイドラインがあることで、業界全体でコーディネートしやすくなり、物が売れるらしい。いい方に考えると、材料のロスがすくなくなる効果も生まれるというわけだ。
主流のシャツメーカーがネオンカラーを作成し、主流の靴メーカーがアースカラーの靴生産なんてなると、購入者も買いにくくなり、相乗的な経済効果もなくなるのは事実だ。服のセンスが時代とズレているような僕にとっては、メーカーに乗せられるとなんとなくオシャレな中年に見える効果があるのは、個人的に助かるのだ。
メーカーの売上が下がり、さらに在庫が余ってロスとなれば、社会全体にも良くない。そんな廃棄の流れが回避できるいい現象でもあるのだ。グローバリズムが発展すると、これは賢い方法である。