AIやロボティクスといった分野に多く投資している日本にとっても、そのインパクトは大きいと考えられる。実際にいくつかのテクノロジーは、人間から仕事を奪うだろう。
例えば、自動運転車が市場に参入すれば、運転手は失業する。私たちはそれを予測し、そういった人たちのre-skilling(再訓練)の必要を理解し、支援しなければならない。そして私たち一人ひとりが自分の能力を最大限に活かすテクノロジーの使い方を学ばなければならない。将来人間にしかできない仕事─クリエイティビティ、問題解決能力、クリティカルシンキングといったスキルが重要になると私は考えている。
さらに、テクノロジーの進歩により、組織を介さなくても働き手たちは直接連携しやすくなった。「ギグエコノミー」や「シェアリングエコノミー」が広がり、スキルを買いたい企業と働き手をつなぐテクノロジーはますますグローバル化し、洗練されつつある。
将来、大企業はなくならないにせよ、大企業の周囲に多くの中小企業や新興企業が集まる新しい「ビジネスのエコシステム(生態系)」が形成されるだろう。エレクトロニクスのサムスンや半導体のARMなどはすでに、きわめて重層的な連携関係で結びついたエコシステムを築いており、何百社もの企業と連携して最先端のテクノロジーや高度サービスを実現している。ビジネスのエコシステムの台頭は、雇用の機会を多様化させる。人生の一時期に組織に雇われずに働く方法も現実的な選択肢となるだろう。
そういった環境の中で“IntangibleAsset”─「見えない資産」に目を向ける重要性を伝えたい。
「見えない資産」とは、生産性を持続するためのコンスタントな学習、健康やバイタリティといったものだ。特に、ジミーとジェーンの世代は常に「見えない資産」に投資し、自分自身を「トランスフォーム」することを意識する必要がある。常に「自分のビジネスを始めたいか?」「休暇を取って全く違う分野のことを学ぶ必要があるか?」を問うことが求められるのだ。
私が著書の中で示したジェーンのシナリオは、大学を卒業後旅に出て、エクスプローラー(探検者)の日々を送り、人的ネットワークや外国語のスキルを築き、自ら会社を起業する。30代半ばで大企業に加わり、その後また大企業を退職して新しいスキルの習得に乗り出す、というものだった。これからは、企業の階段を上がるだけではなく「下る」決断をする人はどんどん増えていくだろう。
日本はどうあるべきか?
私が驚いたのは、日本には非常にクリエイティブな人たちが多いにもかかわらず、起業率が諸外国でも最も低い国のひとつであることだ。生産的な100年ライフを過ごすためには、断続的に自分自身を“Reinvent”(再発見)する必要がある。人生の長い時間の中の一時期を、自分のビジネスを立ち上げるために使うことは有意義だ。
また、日本において高年齢層の人たちがもっと働くことは明らかに重要なことだ。彼らは元気で健康的、そして知識も豊富だ。高年齢層が、スモールビジネスを始めることも、経済の活性化につながるだろう。実際にアメリカでは25歳以下の人たちよりも、50代以上の人たちが自分でビジネスを立ち上げており、より高い年齢層の人たちが起業を望んでいる。
将来、新しいビジネスのエコシステムの中で働く機会が広がって、「ワーク」と「ライフ」の境界線は崩れ、再統合されるだろう。伝統的な3ステージの考え方から解放され、誰も経験をしたことのない変化や革の中で埋もれているチャンスを、自らの手で掘り当て、つかみ取ってほしい。100年ライフの恩恵を受けられるかどうかは、あなた自身にかかっているのだ。
リンダ・グラットン◎ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、「働き方の未来コンソーシアム」を率いる。
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