アイエムでCTOを務めるラムツイ・リックは1982年生まれ。16歳の頃に父から貰ったキヤノンの一眼レフの名機「A-1」を今でも大切にしている。
「起業した時、他のスタートアップ企業みたいに『とにかくダウンロード数を稼いでどこかに売り飛ばそうぜ』みたいな考えはなかった。僕らには写真に対する愛があった。今や2兆枚ものモバイル写真がシェアされているけれど、ほとんどは人目につかず消えていく。僕らはテクノロジーの力で写真の価値を発見するプラットフォームを作ろうと思った」
“欧州版インスタグラム”と呼ばれる写真アプリ、アイエムはユーザー数2000万人を誇り、利用者は世界150カ国に広がる。フォトストック大手のゲッティイメージズとも提携し、写真のマーケットプレイス的な役割も果たす。
「最初にiPhoneを手にした時、カメラの性能が驚くほど良いことに気づいた。モバイルのリアルな写真の時代が来ると思った。駅の通路でゲリラ的な展覧会を開いたら約4000人の応募が来た。その人たちが最初のコアユーザーになってくれた」
約1年半をかけ利用者100万人を達成。シリーズAで600万ドルを資金調達し、総調達額は2400万ドル(約27億円)に及ぶ。「当時はベルリンがスタートアップの聖地のように言われ出した頃。タイミングもよかった。でも、絶対に浮かれちゃだめだぞってみんなで話した。シリコンバレーでは無料で食事を出したり、卓球台をオフィスに置くのが流行りかもしれない。けれど、卓球がやりたくて会社に来る人間に仕事が任せられるかってね」
ベルリンは次のシリコンバレーになるのか、という質問にはこう返す。「それはまったく違う。シリコンバレーはクルマ社会だけどベルリンはそうじゃないし、冬は-5℃になることもある。類似点があるとするなら、グローバルで活躍する企業がいくつもあることだけだ」
彼らの写真への愛が次に生み出したのは、人工知能を活用した写真解析テクノロジー「EyeEm Vision」だ。
「世界中でシェアされた写真データを活用しコンピュータに“良い写真”とは何かを学習させる。グーグルやインスタグラムの画像検索はキーワードが元になるけれど、僕らにはそれを超えるものが生み出せる。画像認識の分野はすでにコモディティ化が始まっているけれど、僕らにはもっと新しいことができる」
凍てついた冬のベルリンを、地下鉄を乗り継いでオフィスに向かう。常夏のカリフォルニアからは生まれない情熱とアイデアが胸にある。