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2017.03.20 18:00

グーグルがベルリンに開いたスタートアップ製造基地「ファクトリー」の全貌

ファクトリーはグーグルから100万ユーロを調達し2014年にオープンした。ミッテ地区のベルリンの壁跡地のすぐそばに立地し、周辺には旧東ドイツ市民が西側への逃亡に用いた地下トンネルの存在を示すプレートも掲げられている。

東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊したのは1989年のこと。最初にこの街に来たのは貧乏アーティストたちだった。その次に来たのが最盛期に100万人を動員した野外レイヴ「ラブパレード」でプレイするDJたちだった。
 
そして、今この街に集まるのは世界中の起業家たちだ。
 
ベルリン中部のミッテ地区、1万6000平方メートルの床面積をもつ、石造りの建物に2014年、グーグルの主導でスタートアップ製造工場「ファクトリー」が生まれた。ベルリンの壁の跡のすぐそばに建つこのビルの窓から、1960年代には旧東ドイツ警察が、自由を求め西側に逃亡する市民を射殺する現場が見えた。
 
数十年が経過した今、ファクトリーは「欧州のシリコンバレー」の異名をとるベルリンのスタートアップの象徴となった。ウーバーやツイッター、音楽配信サイト「サウンドクラウド」などの大手が拠点を構え、コワーキングスペースに集う起業家は約800人。シリコンバレーのIT企業にならい“キャンパス”と呼ばれるオフィスの壁面にはギターが飾られ、ミレニアル世代の若者たちがMacBookのキーボードを叩く。 

ファクトリーでCRO(チーフ・リレーションシップ・オフィサー)を務めるニクラス・ロールヴァッハーは旧東ドイツのライプチヒで88年に生まれた。

「壁が崩壊した時の話を両親から聞かされて育った。全てが監視下に置かれる自由の無い世界が、ある日突然西側に開かれ、とてつもない変化が始まった。情報と人がカオスのように押し寄せる渦の中で自分は育ってきた」 

ベルリンに拠点を置くスタートアップ企業は現在約2500社。08年と比較するとデジタル系企業の雇用は70%増加した。一昨年ベルリンのスタートアップが調達した資金は24億ユーロ(約2900億円)に及び、ロンドンやストックホルム、パリの3都市の合計を上回った。ベルリンにはこの街ならではの「世界を変えていくパワー」があるという声は高い。

起業家のための会員制クラブ

自身も2つのスタートアップ企業の経営を経てファクトリーの運営チームに加わったニクラスは地元の高校を卒業後、ベルリンの演劇学校エルンスト・ブッシュに進み、舞台俳優としても活躍した。

「卒業間際に友達とふつうの会社員にはなりたくないと話していた。会社を立ち上げることを決め、お互いのアイデアを出し合った。ネットワークイベントにも顔を出し、投資家たちともミーティングを重ねた。そうやって生まれたのがメンターという目標管理アプリだった」 

2番目の会社を立ち上げた頃にファクトリーの運営者から誘いを受けた。

「自分の役割はファクトリーの外務大臣。いろんなカンファレンスに顔を出し、自分たちが何をやっているのかを説明する。起業家と外部企業をつなぐ役割もある」 

ファクトリーの機能を一言で言うと“起業家のための会員制クラブ”ということになる。入会審査を通過し、毎月約55ドルの会費を払えばコワーキングスペースやミーティングルーム、イベント等へのアクセスが可能になる。業界の大物を招いたカンファレンスも定期的に開催され、ウーバーのトラビス・カラニックCEOや、グーグルX創業者のセバスチャン・スランといったシリコンバレーの著名人の講演も聴ける。16年9月にはYコンビネータを招いた資金調達セミナーも開催した。
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上田裕資 = 文、パトリック・モラレスク = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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