香港在住の構造家に聞く「海外で仕事を続けるメリット」

STRUCTURE代表、金田泰裕

国内外の建築構造設計を担う香港在住の構造家・金田泰裕氏。新国立競技場コンペも経験した氏に、パリで独立するまでの歩み、海外在住のメリットなどクリエイティブな生活スタイルを聞いた。


日本、パリ、香港と場所を移しながら、構造設計者として活動しています。建築の構造設計とは、建築物を形成する方法、および全体的構成や骨組み、各部の下地や仕上げに至る細部構造を担当する仕事。協働設計のうえでは建築家とは対等の立場にあります。

大学は建築工学科です。学生のほぼ100%が建築家希望ですが、「将来的に個人事務所を持つ人は約3%」といわれる厳しい世界なので、自分なりのカラーやビジョンを持たなくてはいけません。自分は大学時代から構造設計に興味があって、その道のプロとなったうえで─「構造設計ができる建築家」としての独立を考えました。

卒業後には鈴木啓(あきら)さんのアトリエASAに入社。「せんだいメディアテーク」という日本近代建築史のなかでも記念碑的な作品を、独立前に担当されていた方で、面接の二言目に「働きますか?」と(笑)。

大きかったのが「5年後に辞めてください」といわれたこと。小さな構造設計事務所はいずれ独立するのが前提ですが、「5年」という期限を常に意識して働くというのは刺激的だった。そこで80ほどのプロジェクトを担当させてもらいました。

ただ、鈴木さんのもとでは最大規模で10階建てのビル、中規模の結婚式場だったので、スタジアムや美術館クラスを独立前に経験しておきたかった。学生時代から構造主義を代表する批評家ロラン・バルトに影響を受けていたこともあり、次のキャリアはフランスで構築することを決定。建築家・妹島(せじま)和世さんが西欧で組む構造設計事務所Bollinger+Grohmannのパリ支社に採用され、2012年4月に渡仏しました。

ここではパリの大学キャンパスや映画配給会社のファサード(建物の正面デザイン)、仏北部カレーの体育館、台湾台中の公園内の橋などを担当。また、パリ在住の建築家・田根剛(つよし)さんと新国立競技場コンペに挑戦し、最終11組まで残った経験もあります。

その後、14年に念願の独立。しかしフランスは日本のように新築がボンボン建てられるわけではない。増築やリノベーションはありますが、構造設計として関われるものがあまりなかったのです。一方、日本やアジアのプロジェクトが増えていったので、16年に香港に移住しました。
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構成=堀 香織、写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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