家業の危機を救ったのは、新発想のモノづくりについての日々の努力

CEO's LIFE 山崎一史

零細ミシン専業メーカーがヒット商品を連発!3代目社長・山崎一史が家業の危機を救ったのは、まさに新発想のモノづくりについての、日々の努力だった。


弊社は1946(昭和21)年、家庭用ミシンの製造を目的として祖父が創業。僕は父に続き、3代目社長になります。

これまで市場縮小や円安など、いくどとなく企業存続の危機に立たされましたが、ミシンの楽しさを伝えるために開発した子ども用「毛糸ミシンHug」や、多忙なお母さんのために開発した「子育てにちょうどいいミシン」などが高く評価され、2020年には創業以来過去最高益を達成しました。

今後もミシンを通じて社会課題を解決し、世の中のお役に立てるモノづくり、コトづくりにかかわろうと考えています。

「家業がピンチ」と父から知らされ、アックスヤマザキに入社したのは27歳のときでした。その後、ミシン業界を変革するヒントをつかもうと、グロービス経営大学院に入学。弊社のPPM分析で「負け犬(撤退する段階)」という結果が出たときは、愕然としました。ただそこで社会的・業界的な課題を徹底的に考えることを学び、「大逆転戦略」というのを練ったとき、初めてクラスで1番になったのです。それが子ども向けミシンのアイデアでした。

会社で発表すると、当時社長だった父から「会社を潰す気か!」と怒鳴られたけれど、幹部全員を説得し、3年かけて商品化にこぎつけました。その後、37歳で社長業を継いでいます。

これまでの人生を振り返ると、高校時代に確信した「人は思った以上にはならない」は間違っていなかったなと感じます。当時の僕は勉強嫌いで、成績もクラス48人中、いつも40番以下でした。それで「30番台は頭がええ。20番台はすごく賢い。10番台は別格。一桁はあり得えない」と決めつけていた。しかし、高2になり、「思い切り勉強したら自分の成績はどうなるんだろう?」と思い立ち、猛烈に勉強したのです。

結果は前回の43番から、なんと3番に。衝撃でした。あり得ないと思っていた一桁に自分が入ったわけで、「物事を勝手に決めつけたり思い込んだりするのは危険」「常識は疑うべし」という考えに至ったのです。

「人は思った以上にはならない」─その言葉を胸に30歳から始めたのが、年末恒例の「ひとり合宿」です。白紙のノートを手にひとりきりになれる場所に2泊3日以上で宿泊して、「やりたいと言ったのにまだ始めていないこと」「このまま死んだら後悔すること」「絶対に達成したいこと」などを洗い出し、いつ始めるのかの期日なども記して、自らに約束する合宿です。

滞在中で丸一冊書き終えるくらい、自らを追いこんでいきます。コツは恥ずかしさを無視して書き綴ること。僕自身、「グッドデザイン金賞を受賞する」「V字回復」「会社最高益」などと書き記し(ただし身の丈に合う目標にする)、達成の期日を決めたところ、それらはすべて叶いました。

グロービスでは戦い方を教わりました。しかし、戦い方を知った瞬間が危険でもあります。ボクシングを始めたとき、最初はどんどん前に足を出せたのに、「もう少し脇を締めて」と指導されたことで足が出なくなり、自分より弱いはずの方にこてんぱんに負けました。グロービスで学んだ戦い方と、前に雄々しく進むための合宿の両輪が、僕のモノづくりの財産です。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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