ビジネス

2017.02.22 15:30

月面レースに挑む3人の経営者が、その先に見る宇宙ビジネスとは


「宇宙プロジェクトのこんな話があるんだけど」

サカナクションの5人のメンバーに、マネジメント側から紙の資料が手渡されたのは15年のこと。山口は技術説明書かと思って資料に目を落とすと、「まるでジャケットデザインみたいだ」と感心した。宇宙を国家事業のイメージから解放し、ごく身近に手繰り寄せるデザイン資料。領域を飛び越え、融合することを続けてきた山口にとって、心を鷲掴みにするものだった。HAKUTOのテーマソングをつくれないかという曖昧なリクエストだったが、山口はこう即答した。

「プロジェクトと一緒に音で関わりをもっていけるんじゃない? やりますよ」

07年にアルバム『GO TO THE FUTURE』でデビューした北海道出身の5人組サカナクションは、ロックにダンスミュージックやエレクトロを融合させるだけでなく、文学性の高い歌詞や人気面も含めて、まさに現在の音楽シーンを代表するバンドといっていい。

また、バンドという従来の概念を壊している点も注目されている。

16年、山口はパリコレクションで、ファッションブランド「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のサウンドディレクションを担当した。

「その時のテーマはサイレント。ない音をつくる、というものでした。考えたのは、服に音をつけたら。ARの技術を使い、服にARをかざすと柄が消えたり、現実とは違うデザインの服になる試みがあり、服に音をつけたらサイレントに繋がるのではと思ったのです。服が服だけの価値でなくなる。ここに未来を感じました。そして、音楽によって服など他のものの価値を高める、いいモデルケースになると思ったのです」

山口のこうした発想は、違和感から生まれている。プロモーションビデオやテレビ出演にファンが共感し、SNSで「今回のビデオは最高です」とか「ファッションセンスがかっこいい」という賞賛の言葉が並ぶ。しかし、ビデオをつくっているのは監督だし、衣装はスタイリストが担当しているのに、すべてサカナクションというバンドの評価となっている。違和感を抱いた山口は気づいた。

「音楽って、実は音楽以外のもので形成されている部分が多いんじゃないか」と。彼は言う。

「そういった部分も含めて音楽があるとするならば、現在の音楽サイクル以外のところでも表現ができるのではないかと思ったのです」

前述した服、家電、自動車、店舗や街も音を表現できるかもしれない。そして、宇宙にも繋がる。袴田は、「例えば宇宙船の異常を検知するためにも、音を通じた情報は重要」と言っている。人間が視覚だけでものごとを捉えきるには限界があるため、聴覚に訴える音が必要だ。また、「宇宙空間には音がないので、将来的に人間が長く住むことになれば、その暮らしを支えるための心地よい音をつくり出すことも必要になってくる」と言う。

山口が担うのは宇宙のサウンドエフェクトである。山口は、「宇宙空間で音をつくるというのは、これまでに存在しなかった音をつくるわけですから、未来の音をつくることです。とてもワクワクする話ですよね」と言い、こう心に決めている。

「僕はHAKUTOのプロジェクトが終了しても、ispaceの進んでいく道筋で音楽としてのバックアップをしていきたいと思っています。音という目に見えない影響を与えること。それが新しい音楽の使われ方だと思っています」
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文=河鐘基、藤吉雅春 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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