大人にこそ必要な「STEAM+SF教育」とは何か

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来るべきAIの時代、日本は“技術大国”の面目を保つことができるのだろうか。HONZの成毛眞氏は、日本人の科学技術リテラシーの低さに警鐘を鳴らす。

「STEM(ステム)」あるいは「STEAM(スチーム)」という言葉がある。教育の分野で使われることが多く、サイエンス(科学)の「S」、テクノロジー(技術)の「T」、エンジニアリング(工学)の「E」、マセマティックス(数学)の「M」で「STEM」。これにアート(芸術)の「A」を加えると、「STEAM」となる。

いずれもアメリカで生まれた概念で、オバマ大統領によって広く知られるようになった。就任当時のオバマ大統領は、OECDが世界の15歳を対象に実施するPISA(学習到達度調査)で、アメリカの子供たちの成績が低いことに驚き、小中学校での「STEM」教育あるいは「STEAM」教育に力を入れた。現在の子供たちが将来、よりよい職を得るために欠かせないと考えたのだ。

STEAM教育に関して、『AI時代の人生戦略─「STEAM+SF」が最強の武器である』の著書がある成毛眞は、日本でもSTEAM教育は必要だと話す。

「ただし、日本でSTEAM教育が必要なのは子供ではなく、大人です」

日本の子供のPISAの成績は決して悪くない。現在の日本の子供は学校で、最先端の科学技術にアクセスするのに必要な知識を身に付けている。たとえば高校の生物では、数年前から遺伝子組み換えの実験すら組み込まれている。

それに対して、現在の30歳以上の大人たちの知識は、急速に発展する科学技術に追い付いているとはいえない。大卒であっても私立文系であれば高校在学中から理数系の情報と疎遠になり、科学や技術方面のリテラシーを身に付けているとは言えない状況がある。

インターネットが発達し、スマートフォンがあれば大抵のことができる時代になった。さらにAI(人工知能)の発展は目覚ましく、大方の予想を超えて2016年、グーグルの子会社が開発した囲碁AI「アルファ碁」が早くも韓国のプロ棋士に勝利した。そしてAIは、いまや家電から自動車にまであらゆるものに組み込まれつつある。

そうした最新の科学技術をある程度理解し、使いこなすことができなければ、新しい製品を創り出すことができないのはもちろん、説明もできなければ売ることすらできない。単に消費するだけの存在になってしまう可能性がある。

遠くない未来、AIの能力が人間を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」に達するといわれている。現在の人間の仕事の多くが、機械にとって代わられるのは時間の問題だ。その時、AIを理解し使いこなす側になるか、AIに使われる側になるかで、人の暮らしは全く異なってくる。

「消費しかできない社会になれば、国力は下がる一方になります。所得格差も10〜20倍に拡大するのではないでしょうか」(成毛)

ただAIに使われるだけの人間にならないためにSTEAM教育は必要なのだ。

とはいえ、大人のためのSTEAM学校があるわけではない。自ら関心を持ち、知識を得ていくしかない。サイエンスやテクノロジーをテーマにしたサイトや雑誌など、情報源となるものは少なくない。

「SFもお勧めです。ザッカーバーグもイーロン・マスクも愛読書にSF小説を挙げています」(同)

かつて「スター・トレック」の登場人物が使っていた腕時計型の通信機はもう実現している。イノベーションのベースになるイマジネーションの多くは、SFの中で語られたものなのだ。

なるけ・まこと◎書評サイト「HONZ」代表、インスパイア取締役ファウンダー、スルガ銀行社外取締役、早稲田大学ビジネススクール客員教授。近著に『AI時代の人生戦略─「STEAM+SF」が最強の武器である』ほか。

文=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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