海外に比べて日本はまだまだAIの使用例が少ないが、AIの導入により、どのような社会が実現できるのだろうか。日本でいち早くAIを取り入れたワークスアプリケーションズ・牧野正幸代表取締役CEOとfreee・佐々木大輔代表取締役が展望を語った。【前編はこちら】
——お二人は、いち早くAIを取り入れられましたが、きっかけはどのようなものだったのですか?
牧野正幸(以下、牧野):そもそもは、B to Bのソフトウェアの将来に危機感を抱いたことがきっかけでした。アマゾンやグーグルが台頭してきて、コンシューマー向けのシステム技術は急激な進化を遂げ、利便性は格段に高くなった。一方で企業向けのシステムはと言えば、20年前からデータベースも変わっていなくて、昔に比べれば便利にはなったけど、B to Cの技術に大きな差をつけられていたんです。
——なぜ、B to CとB to Bの技術に差ができてしまったのでしょうか。
牧野:B to Bのシステムは、企業内で使われるという性質上、B to Cのシステムに比べて扱う内容の機密性などが高く、データの保全性やセキュリティの安全性がより問われます。だから、それらが担保された技術だけを使っていた。また、それゆえ技術の進化に追随できるエンジニアが育たないという問題もあったのでしょう。
2014年に我々がAI搭載のシステムを発表する前は、業界では「企業向けの業務システムには、もう新しい技術はない」とさえ言われていました。技術はどん詰まりまできてしまっていたんです。そこで私が考えたのが、自分たちのシステムが破綻してしまうことを覚悟で、B to BにもB to Cの最新技術を取り入れることでした。その一環として、AIの搭載も含まれていたんです。
常識からは外れていましたが、シェアNo.1の弊社がやれば、まわりもうちについてくるはずだと思ったんですね。
——B to Bのシステム開発が抱える課題の一つには、エンジニアの育成もありますか?
牧野:そうですね。人材育成には、うちの会社も特に力を入れています。アジア圏はコンピューターサイエンスが発達しているので、優秀な人材が集まります。最近では、その地域での採用を強化しています。そのため、ワークスアプリケーションズは技術の研究拠点を上海・シンガポール・チェンナイに置いているんです。
佐々木大輔(以下、佐々木):エンジニアの成長、という意味では、エンジニア自身が能動的に考えてプロダクトを作っていくことも重要だと私は考えています。問題解決のための技術を生み出すにはどうすればいいか、エンジニアが自ら考える。そういうカルチャーを作り、徹底していけば、技術はどんどん進歩していくはずです。
牧野さんの会社も、うちも、エンジニアが育つための材料は豊富に揃っています。というのも、牧野さんの会社ならば大企業の業務に関するデータが、我々ならば中小企業の財務データがあります。ソフトを使っている現場から吸い上げた、完全性の高いデータを持っている存在であることは、我々のようなプロダクトを開発するものにとっては大きなアドバンテージになります。
例えばグーグルがフェイスブックを恐れたのは、完全性の高いデータを持っていたから。フェイスブックは基本的に実名で、学歴や職歴、誕生日や血液型、家族構成まで入力するからです。我々も、企業内データについて完全性の高いデータを持っていて、それをもとに、より進化した、実用性の高いシステムを開発していけるわけです。それを利用して、エンジニアが育っていく環境を作っていきたいですね。