その大きな要因の1つとされているのが、学生ローンだ。借金の返済によって月々の支出額が高くなり、それが若者の独り立ちや住宅購入、経済への貢献を阻んでいる。
アメリカの学生ローンの債務残高はかつてない高水準にある。関連機関が公立および非営利の私立大学2,010校のうち1,055校を対象に実施した調査によれば、2015年に卒業した学生の(大学ごとの)平均債務残高は3,000ドル~5万3,000ドルにのぼり、最も高水準の大学200校では平均債務残高が3万5,000ドルを超えていた。
しかし、ダートマス大学とモンタナ州立大学の研究者が実施した調査によると、若者を実家に戻らせる最大の理由は借金ではないという。
“ブーメラン組”と独立組の大きな違いは、大学を修了したかどうかだ。2年制または4年制課程を修了した学生と比べ、全課程を修了しなかった学生の方が、実家に戻るリスクが40%高かった。また、恋人や配偶者と一緒に暮らしている学生や、自宅を所有している学生は、実家に戻る割合が低かった。
だが、データを詳しく見ると事態はもっと複雑だ。
「一般的に、若い世代が実家に戻るのは借金が原因だとされている。しかし我々の調査で、それだけが理由ではないことが分かった」と、ダートマス大学のジェイソン・ハウル准教授は述べている。
ある意味、これは驚きではない。学位を修了すれば、より高い収入への道が開ける。実際に、景気後退後の雇用のうち99%は、少なくとも大学で何かを学んだ人にわたっている。つまり、大学を卒業していない若者の多くは収入が少なく、独り立ちするのが難しい傾向にあるようだ。
学位の有無は、学生ローンよりも深刻な問題だ。借金は長い時間をかければ対処が可能だ。しかし、高等教育を修了していない人は、修了している人よりも常に収入が少ないことが統計で示唆されている。
ただし、今まで努力してこなかった“怠惰な”人々をと責める前に、心に留めておかなければならないことがある。
まず、金銭的余裕がある人の方が、圧倒的に大学修了率が高いという事実だ。裕福な家庭の子どもは、貧しい家庭の子どもよりも8倍、大学を卒業する確率が高い。大学費は異常なほどに高騰していて、経済的な支援が追いついていない。多くの若者が大学を修了できない大きな原因は、大学に通う費用が払えないからだ。
別の要因もある。「学生ローンの負担は、人種的マイノリティに特に重くのしかかっている」とハウルは言う。「この実態は、学生ローンが一部の若者を助ける一方で、人種の違いのために他の学生が苦しめられているという重要な問題を提起している」
特に学位取得のための借金が10%多かった黒人の学生は、実家に戻る可能性が20%高くなった。同じ条件下で、白人の学生には大きな影響はみられなかった。
これは多くの場合、黒人世帯は公平な信用機関へのアクセスが限られており、黒人の学生たちは高金利の民間の金融会社を選ばざるを得ないからだ。経済格差がローンの返済をさらに難しくするため、黒人の若者の方が実家に戻る可能性が高くなるということだ。