日本では、1万円の投資信託を買う消費者も、富裕層の方々であっても、金融商品や投資商品に対しては共通して「わかりづらい」という印象をもたれています。例えば自動車であれば、実物に触れて実感することもできますが、金融商品は説明が記された紙媒体があるだけの、理解しづらい不可視の存在です。
それでも、この業界では、専門用語や難解な表現で営業を行ってきました。こうした状況が続く限り、金融庁が謳う「貯蓄から資産形成へ」という動きは、日本で本格化することはない、と私は危惧していました。
では、どうすれば、お客様の金融商品への理解を深めることができるのか。顧客が理解しやすい言葉と有効な活用法の探求が「インベスコ・コンサルティング」の日本での展開を始めたきっかけです。何を言い、どのように表現するか、そしてなぜそれが大切なのか。インベスコ・コンサルティングでは、金融商品の販売会社をサポートする、コミュニケーションに特化した研修プログラムを提供してきました。
私どもは、米国・アトランタを拠点にグローバルな運用力を提供する独立系資産運用会社インベスコ・リミテッドの日本拠点であり、研修会社や教育機関ではありません。機関投資家を対象に、株式や債券などの伝統的な投資戦略から非伝統的な投資戦略まで幅広い商品とサービスを展開し、銀行や証券会社などを通じて個人投資家向け投資信託の提供も行っています。
では、なぜ当社が、本業とは違う、ユニークな研修プログラムの提供をスタートさせたのか。それは、米国のインベスコ・コンサルティング・チームが、マスランスキー+パートナーズと協働で開発した研修プログラムとの出会いに遡ります。
マスランスキー+パートナーズとは、言語が及ぼす感情的な反応や、理解の仕組みを調査研究する世界屈指のコミュニケーションのスペシャリストで、政治家のコンサルタントとしても高名です。彼らと開発した研修プログラムは「信頼」が重視される投信業界で、経験則だけでなく、言語の科学的な調査探求により、アドバイザーや営業の方が投資家と最善のコミュニケーションを確立するためのトレーニングで、20年以上の歴史と実績がありました。
インベスコ・コンサルティング・チームが標榜する「信頼を勝ち取る言葉」とは、「自分が何を言ったかではなく、相手がどのように聞いたかがすべてである」というもの。私は、この考え方と彼らの研修プログラムを日本に導入すれば、日本の投信業界や投資家に貢献できる、新しいイノベーションが生まれると直感したのです。
「成長させ守る」か「守り成長する」か
プログラムの開発のための調査方法はユニークで、相手が発する言葉に対する瞬間的な反応を計測する「DIALセッション」という方法を採用しています。この調査で得られた仮説をアンケート調査で検証し、プログラム開発に生かしていくわけです。
どのような言葉が人の心に響くのか。金融業界で過去にない広範に及ぶ言葉に関する調査が行われ、その成果は、2014年に出版された書籍『信頼を勝ち取る言葉』(原題「THE LANGUAGEof TRUST」2010年刊)で、日本にも広く紹介されました。
同時に、こうした調査に基づく研修プログラムを日本で展開するにあたり、米国での成果をそのまま受け入れるのではなく、日本向けにカスタマイズする必要性も感じていました。そこで、米国のコンサルティング・チームとともに、15年12月より日本でインタビュー調査を行い、翌春は東京と大阪で、投資家を集め「DIALセッション」による調査を実施。ここでは、日本向けの研修プログラム改良のための興味深いデータを得ることができました。その一部を紹介しましょう。
例えば「どの投資戦略がもっとも魅力的か」の問いに対して、米国人は目標を重視するのに対して、日本人はリスクを重視する傾向がありました。つまり、日本では投資戦略の目標を語る前にリスクの話をする必要があるのです。また、米国人は「成長させ守る」のに対して、日本人は「守り成長する」ことを重視する。米国ではアドバイザーとの関係性を重視するが、日本は組織との関係を重視する、など。