EC環境もスマホの普及で主戦場はモバイルに移った。ユーロモニターは、世界のモバイルEC市場が今年末には9,720億ドル(約101兆円)に拡大し、2021年のモバイル決済額が3兆ドル(約312兆円)に達すると予測する。そして米企業はこの分野で遅れをとっている。
米国のモバイル決済業界に明確なリーダーはいない。アップルペイはその座に最も近く、ペイパルも奮闘している。しかしその地位は、4億5,000万のユーザーを持つ中国最大のモバイル決済サービス、アリペイに脅かされるかもしれない。
アリババ傘下のアント・フィナンシャルが運営するアリペイは、サービス範囲をアジア、ヨーロッパ、そして米国に急拡大している。10月24日には、米電子決済事業者のファーストデータ(First Data)、ベリフォン(Verifone)と提携し、米市場に正式参入すると発表した。
世界70ヶ国で展開し米国にも進出
アリペイの海外展開のスピードはとてつもなく速い。先月だけで、70か国にまたがる8万の小売業者がアリペイを導入した。ミュンヘン、成田、オークランドなど10か所の国際航空もアリペイに対応し、免税店のDFSグループは4日、サンフランシスコ国際空港でアリペイを導入する契約をアント・フィナンシャルと結んだ。
アリペイの戦略は、自国でのモバイル決済に慣れた中国人の海外旅行者の海外での支払いを取り込むことだ。昨年は1億2,000万人以上の中国人が海外を旅行し、2,000億ドル(約21兆円)近くを消費した。
世界の小売業者は、中国人客を呼び込もうと、アリペイの導入に動いている。英高級百貨店のハロッズ、セルフリッジズは既にアリペイを導入し、米マーシーズとノードストロームも近く対応予定だ。
アリペイには競争相手がいないように見える。アップルペイやペイパル、そして他の米決済サービス会社は、アリペイの世界での旋風と米進出を、ぼんやりと眺めているだけだ。アリペイが決済ツールとして米国で広く受け入れられれば、アップルペイやペイパルの競合となるだろう。
10年前、アリババはeBayを中国から追い出した。eBayは敗れはしたが、少なくとも善戦した。しかし今回、アップルペイとペイパルはアリペイの進出に何の策も取っていないようにみえる。
ユーロモニターによると、モバイル経由で決済するアメリカ人は、今は15%にとどまっているが、2020年には46%に増えるという。米国勢が3兆ドルの世界のモバイル決済マーケットに食い込みたいならば、立ち止まっている暇はない。