研究開発型企業の「勝ちパターン」をつくる/ペプチドリーム窪田社長

ペプチドリーム 窪田規一 代表取締役社長 (photograph by Jan buus)

「苦しむ患者に薬を届ける」。壮大なビジョンと成長戦略に基づき、創薬プラットフォームシステムをつくりあげたペプチドリーム。グローバル大手との協同で次世代創薬の総本山を見据えるー。

「技術で勝ってビジネスで負ける」。そんな日本の研究開発型企業の“負けパターン”を覆した企業がある。2006年創業、窪田規一が社長を務めるペプチドリームだ。創業5年目から6期連続で最終黒字を計上している同社は、バイオ業界のまさに異例の存在だ。

通常、バイオビジネスは事業立ち上げから利益が出るまでの時間軸が他の業種と比べて極端に長い。たとえ巨額の資金調達が行えても、10年間は赤字が続くとされる。だが、そういった通説にとらわれず、窪田は極めて戦略的なビジョンを描いてきた。

「厳しい目を持つ投資家が『絶対成功する』と思うー、そんな盤石なビジネスモデルや現実的な経営計画を創業期から心がけてきました」
 
窪田の言葉通り、ペプチドリームは創業以来、安定した成長を続け、11年6月期に最終黒字を計上、13年6月に東証マザーズへ上場した。15年12月には東証一部へ市場変更、16年6月期は売上高43億2,700万円(前年比74.9%増)、経常利益23億7,200万円(同58.5%増)へと業績を大幅に伸ばしている。

バイオベンチャーのペプチドリームが、継続的黒字成長を遂げられたポイントは2つ。独自技術を生かした収益モデルと、共同創業者の明確な役割分担だ。同社ビジネスモデルの強みは、創薬開発プラットフォームシステム「PDPS」にある。

PDPSから創製できる特殊ペプチドを活用し、独自の創薬分野「特殊ペプチド創薬」「低分子創薬」「ペプチド複合体創薬」を開発、低分子医薬や抗体医薬が中心だった医薬品業界において、特殊ペプチド医薬という新たな市場を作り出した。

ペプチドリームは、スイスのノバルティス、英国のグラクソ・スミスクラインやアストラゼネカなど、グローバル大手の製薬会社を中心に計17社(16年9月時点)と提携を行い、共同研究開発、技術ライセンス供与、創薬成功といった節目にロイヤリティを得ている。

自社創薬へ至るまでの道程で資金が枯渇しないよう、アライアンス関係で契約一時金や定期収入を着実に積み重ねていくー。この事業モデルによって、バイオ業界で早期黒字化を果たした。

「前臨床試験や臨床試験には莫大なコスト・人材が必要になるので、この部分は製薬会社にシェアしてもらいます。その代わり、そこに到達するまでのポテンシャルを持った化合物をつくろう、というのが我々のビジネスモデルです」

PDPSを導入した製薬会社側のメリットも多い。薬の候補物質を見つけ出そうとした際、特殊ペプチドはPDPSによって試験管内で簡単に創製できるため、大きな設備投資が不要となる。さらに、サイズが小さく様々な標的分子に対応できる低分子医薬の利点と、標的分子に対する結合力や特異性に優れている抗体医薬の利点ー、これら双方を特殊ペプチドは兼ね備えている。
次ページ > 技術と経営を明確に分けたビジネスモデル

渡邊玲子 = 文 土橋克寿 = 編集

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事