労働力の供給
移民受け入れ反対派の主張が正しいとすれば、移民にやさしくない日本は圧倒的な経済大国になっていたはずだ。だが、日本はそうではない。経済・人口の両面で、危機に直面している。ブルームバーグが今年7月に発表した分析結果は、「日本の平均年齢の高さと出生率の低さは世界一だ。移民はほとんど受け入れていない。成長に関する問題は、さらに深刻だ」と指摘。さらに、次のように述べている。
「1990年代初頭、戦後から続いた経済成長の後に発生したブル経済が崩壊。それから数十年にわたってデフレが続いた。そして日本は、労働力不足に苦しみ始めた」
一方、NASは米国について、「移民は労働力を供給し、国内総生産(GDP)を押し上げてきた。人口動態の変化によって起きる労働人口の変化(特に高齢化──日本ではこれが起き、労働人口が減少している)に歯止めがかけられており、そのおかげで米経済の成長は、停滞を回避することができている」と説明している。
起業家精神の供給
NASは「経済成長を長期的に持続させるためには、移民がもたらす人的・物的資本形成と起業家精神、イノベーションへの影響が欠かせない」と指摘している。
移民が米経済にもたらした影響に関連して、米国政策財団(NFAP)が今年3月に発表した報告書によると、時価総額が10億ドル(約1.037億円)を超えるスタートアップ87社のうち44社の創業者には、少なくとも1人の移民が含まれていた。
米中小企業庁の報告書に示された2000年の国勢調査データによれば、移民の起業家が経営する企業の経常利益は合計670億ドルに上っている(米国全体では5,770億ドル)。カリフォルニア州に拠点を置く企業の経常利益は全体で約200億ドルに上るが、そのおよそ4分の1は、移民が起こした企業の経常利益だったという。また、ニューヨークとニュージャージーの両州では、この割合は5分の1ほどに当たる。
人的資本の供給
NASは、「移民の受け入れによって、米国にはイノベーションやテクノロジーの変化への対応力の向上を可能にする高度な技能を持った人材が流入した。これは、労働力の供給以上に重要だと考えられる点だ」と指摘する。
コロラド大学のエコノミスト、キース・マスカスによると、米国の大学で科学または工学の博士号を取得した外国人留学生が卒業後に出願する特許の件数は、100人当たり62件に上るとの調査結果がある。
結論
こうした調査結果などを受け、NASは以下のように結論付けている。
「移民によるイノベーションは、米国生まれの人たちの生産性を高めることができる。それが、1人当たりGDPの伸びにつながっている可能性は極めて高い」
「つまり、高度な技能を持つ移民によってもたらされる恩恵がなければ、米経済が長期的な成長を持続できる見通しは、著しく不透明になる」