テクノロジー

2016.10.03 07:30

リオの次は月だ! 世界月面探査レースに挑むHAKUTOの夢


「月面探査レースがあるということは知っていました。しかし、直接プロジェクトに関わることになったのは偶然としか言いようのないものです。2009年にJAXAに勤める友人の結婚式に出席したのですが、その会場でGoogle Lunar XPRIZEに参加していたヨーロッパのチームの人物とたまたま隣り合わせになった。当時そのチームは参加に必要な50億円以上の資金調達、また月面探査ロボットの技術開発で苦労しており、協力者を探していたのです」

ヨーロッパのチームはその時点で探査ロボットの技術開発面では東北大学の吉田和哉教授の協力をとりつけていた。思いもよらぬ結婚式で「月への誘惑」をうけた袴田は、悩みに悩んだ末に参加を決意、要請された20億円以上の資金集めに奔走し始める。

「当初は、志ある4~5名のボランティア・メンバーが集まり、熱いディスカッションを重ねていました。僕自身も他に仕事を持つボランティア・スタッフのひとりでした。ただ僕としては、メンバーのなかにある宇宙への情熱、プロジェクトを成功させたいという信念が醒めてしまうのが怖かった。そこで法人を設立、僕が代表となりプロジェクトをリードする体制をとりました」(袴田)

シビアでクールなメンバーたち

袴田は当時、「コンサルティング会社に勤めており、週に3日は会社、そして残りは宇宙プロジェクト」という生活をこなしていたという。「勤めていた会社の理解がなければ、到底そのような生活はできなかった」とも振り返る。

転機が訪れたのは、2013年初旬だった。話を持ちかけてきたヨーロッパのチームが、資金調達難を理由にプロジェクトの継続を断念することになったのだ。袴田は、この時、勤めている会社をやめることを決意。自分の力をすべてプロジェクトに注ぐことを決心する。

「ヨーロッパのチームがプロジェクトを断念した時点で諦めるという選択肢を選ぶことは簡単でした。でも『絶対に後悔する』という直感が頭をよぎったんです。そうして、チームHAKUTOを立ち上げることになりました」(袴田)

現在、チームHAKUTOは、袴田が代表取締役を務めるispaceの社員、プロボノ(各分野の専門家が知識やスキルや経験を生かすボランティア)、および東北大学のメンバーを合わせて100名くらいの大所帯となっている。

チームに漂う雰囲気は、非常に独特だ。緊張感と責任感、そして夢を現実にするための抜き差しならない厳しさがある。巷では、「夢」や「情熱」という言葉でもてはやされがちなHAKUTOプロジェクトだが、それを支える中心メンバーたちは一転、シビアでクールだ。
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文=河鐘基 編集=稲垣伸寿 写真=岩沢蘭

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