たとえば国際宇宙ステーションへの補給船「こうのとり」の打ち上げの際に、地上メンバーが使う手順書の数は約2,000にのぼる。JAXAはその手順を構築するのはもちろん、数々の訓練を通して決して間違いが起こらないような態勢を整えている。
また宇宙飛行士の訓練はハードなことで知られるが、体力は大前提として、長期間にわたり閉鎖空間で活動するためにはメンタル面の強靭さも要求される。そうしたメンタル面の訓練にも、JAXAならではのノウハウがある。
JAXAと電通が立ち上げた未来共創会議は、こうしたノウハウを含めた技術的資産を民間企業の領域にマッチングしやすいように整理する。それをもとに民間企業と一緒にビジネスアイデアを創出することで、企業での活用につなげていこうというものだ。
宇宙技術はこれまでにも、実際に民間企業で活用されてきた。
たとえばGPS(全地球測位システム)がその代表例だ。GPSがGoogleマップやカーナビゲーションシステムなどに使われていることはよく知られている。そのほかにも1991年の雲仙普賢岳(長崎県)の噴火の際には、GPSを使って無人の作業車を遠隔操作して土石流の除去作業を行った例がある。また、原子力発電所の事故現場でも、水素爆発後の瓦礫の処理、解体工事などで、GPSによる無人機の遠隔操作技術が活用されている。
一方、宇宙服が備えている身体冷却技術は、エボラ出血熱が蔓延した地域や、原子力発電所の事故現場といった極限環境で使われる防護服などへの応用が期待されている分野だ。
そのほかにも、宇宙飛行士が着用する宇宙下着の技術を応用した、汗のにおいや加齢臭をおさえる消臭下着がゴールドウインと東レから発売されている。