子供の頃を思い出して欲しい。大人になったら、どんなクルマに乗りたいと思っていただろうか。恐らく、ベントレーという名前は挙がらなかったに違いない。大人になると、いいことも悪いことも色々と覚えるようになる。もし、ちゃんとロールス・ロイスとベントレーの違いがわかるような大人になっていたら、それはそれは素晴らしい大人の証明である。
ベントレー。これほどまでにわかりづらい高級車はないと思う。巷で語られるのは、ビジネスで成功したエグゼクティヴがショーファー付きで乗るイメージだろうか。もしくは、お金持ちがステイタスを誇示する象徴として乗っているイメージだろうか。
確かに、「フライングスパー」を前にすると、成功者のためのクルマという匂いがプンプンする。馥郁たるレザーの香りが立ち込める車内は、上質で洗練された空間で、座っているだけで優雅な気持ちになる。子供の頃は想像もできなかった世界が、そこには広がっている。大人だけがその価値を知る空間なのだ。
かつて子供だった昔、いつか乗りたいと憧れたクルマは、いわゆるスーパーカーだったかもしれない。道行く人も振り返るエキゾチックなスタイルに、レーシングカーに勝るとも劣らない高性能。ベントレーとは、まったく違う世界のように思われるに違いない。だが、果たして本当にそうなのだろうか。
1920年代。ベントレーはまさしくスーパーカーであった。ルマン24時間レースに総合優勝5回という快挙を成し遂げ、ベントレーボーイズという、誰もが憧れる名称で呼ばれた時代である。かのジェームズ・ボンドも、イアン・フレミングの原作では、グレーのベントレーを愛用しており、「アストンマーティン」は影も形もない。つまり、それだけ誰もが憧れるクルマだったのである。翻って現代。あまり知られてはいないが、今もベントレーボーイズたちはサーキットで健在だ。GT3というクラスで戦うベントレーたちには、街角で見かけるお金持ちのためのクルマというイメージは微塵もない。
ビジネスもある意味、レースのようなものである。だが勝利のために闘志を剥き出しにするなんてことは、品格のあるジェントルマンがすべきではない。ベントレーも同じである。ひとたびサーキットに放てば野獣のような性能を発揮するマシンを、仕立ての良い上質なスーツで包むその余裕。これこそ非常に英国紳士的であり、大人だけが知る洗練というものである。後席ではなく、ぜひベントレーのステアリングを握ってもらいたい。「洗練」とは、鍛えられて生まれるものだということが、おわかりいただけるだろう。
田窪寿保◎1966年東京都生まれ。グローブ・トロッター アジア・パシフィック代表取締役、英グローブ・トロッター本社取締役副社長。2016年3月31日、東急プラザ銀座1Fに日本初の旗艦店「グローブ・トロッター銀座」を出店。
Bentley Flying Spur V8
エンジン型式 : 4.0リッター・ツインターボチャージドV8
全長 : 5,315mm
全幅 : 1,985mm(ミラー除く)
全高 : 1,490mm
価格 : 19,450,000円
問い合わせ : ベントレーコール 0120-97-7797