「人工葉」発明のハーバード大教授が語る、イノベーションと商業化のジレンマ

ハーバード大学のダニエル・ノセラ教授 (Photo by Jemal Countess/Getty Images)

ハーバード大学のダニエル・ノセラ教授は、アメリカのエネルギー系スタートアップを支援する仕組みに見切りをつけたという。「教授らの懐には金が入るが市場にイノベーションをもたらすスピードが遅すぎる」というのだ。

ノセラ教授はシカゴ大学の講演で「発見をすると金持ちになれると考える教授がたくさんいることに辟易しています」と語った。「ITや医薬品の分野ではそうかもしれませんが、インフラが確立されているエネルギー分野では莫大な資本が必要なため、失敗するのが目に見えています」

ノセラ教授が立ち上げたスタートアップのサン・カタリティクス(Sun Catalytix)は2011年にシリコン製の太陽電池の「人工の葉」を開発して称賛された。しかし、その後突然、研究対象をエネルギー貯蔵に変更し、改良したフロー電池の試作品を開発。2012年にロッキード・マーティン社にその技術を売却した。

ノセラ教授がフロー電池の開発に乗り出したのは、送電網が確立されている先進国では発電よりも蓄電の方がイノベーションを必要としていると考えたからだ。「良い蓄電池があれば、再生可能エネルギーがはるかに早く市場に浸透するはずです」

エネルギー革命を阻む巨大資本の壁

そしてその技術をすぐに売却したのは、フロー電池をできるだけ早く市場に出したかったからだという。「早く市場に出すには技術を売るしかなかったのです」(ノセラ教授)。売却価格は公表していないが「(ロッキード・マーティンにとって)かなり魅力的な価格」だったという。ロッキード・マーティンも価格の公表は避けた。

「開発したフロー電池を一般的な方法で市場に出そうとした場合、ベンチャー・キャピタルから融資を受けて、企業価値を高めてから、中国のシリコンパネルメーカーに売却する道もあった」とノセラ教授は語る。しかしそれではフロー電池を市場に浸透させることは不可能だったと見ている。

「金が欲しいだけだったらそうしていました」とノセラ教授は語る。

ノセラ教授は、マサチューセッツ工科大学発のエネルギー系スタートアップ5社(Lilliputian Systems、Green Fuels、Luminus、A123 Systems、Evergreen Solar)の末路を特集したフォーブスの記事に言及した。

この記事では「5社のほとんどが市場の何年も先を行く技術を持っていたが、企業が成熟したころには市場に追い越されていた。技術は素晴らしかったが、市場に出す過程が難しいものだった」と分析している。
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編集=上田裕資

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