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2016.05.15

「腐敗国家」と2か国批判の英首相、自国の実態はどうか 欧米の偽善も問題

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汚職や腐敗対策について協議する国際会議「反腐敗サミット」が5月12日、ロンドンで初めて開催された。ビジネスに関する汚職と聞くと発展途上国の問題だと考えがちだが、マネーロンダリング(資金洗浄)や贈収賄は実際には、私たちのごく身近でも起きている。

ジョン・ケリー米国務長官はこの問題について、「汚職は社会全体の基本的な構造を破壊する」と述べた。しかし、残念ながら今回の会議で具体的な対策が打ち出されたとは言えないだろう。欧米各国の政治家たちの多くは、汚職は主に「外国人による問題」だと考えているためだ。自国の金融システムには、非難されるところはないと信じているのだ。

これは、デービッド・キャメロン英首相の言葉からも明らかだ。同氏は会議の開催に先立つ10日、アフガニスタンとナイジェリアを「とてつもなく腐敗した国」「恐らく世界で最も腐敗している」と発言。ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領の反発を招いた。大統領は欧米諸国がナイジェリアの富をどれほど奪ってきたかについて語り、「資源の返却を要求する」として、欧米諸国の偽善的な態度を批判した。

汚い金に支えられる米英

欧米最大の都市では今、住宅バブルが起きている。多くの人たちはそれを放置し、それどころか現状に満足しているようにさえみえる。だが、実際にそこで起きているのは投機的な売買や汚職、そして違法に入手された資金の使用だ。

ニューヨークでは、同市だけでも毎年およそ80億ドル(約8,680億円)が不動産市場に流入する。市内の居住用建物の平均価格は500万ドル。そして、米紙ニューヨークタイムズによれば、これらの購入者の半数以上は、“ペーパーカンパニー”だ。

さらに、大西洋を渡った反対側でも、状況はほぼ同じだ。銀行幹部らもロンドンについて、「世界最大、かつ最も発展したタックスヘイブンだ」と話す。「パナマ文書」で流出した情報によれば、犯罪組織が資金洗浄のために主に使用している手段は、ロンドンの高級不動産市場への投資だという。

また、あまり大きく報じられることはないものの、米デラウェア州は多くの反汚職活動家たちの間で、タックスヘイブンだとして厳しく批判されている。世界各国の汚職の実態を監視する非政府組織(NGO)、トランスペアレンシー・インターナショナルはこの米国で2番目に小さい同州を、「取引におけるクライムヘイブン(犯罪回避地)」だとあからさまに非難している。

米国で設立される企業の65%が、同州に拠点を置いている。「ノース・オレンジ1209番地」という一つの同じ住所に、28万5,000社以上が本社を置いているのだ。これは、世界中で最も多い数だという。ペーパーカンパニーと「受益所有者」は、ずっと以前から反汚職活動家たちにとっての“バグベア”(悩みの種)となってきた。

キャメロン首相に説得力はない?

キャメロン英首相は今回の反汚職サミットで、登記されている企業の実質的所有者の情報を一般に公開する方針を示し、同調する国による“有志連合”の設立を呼び掛けた。だが、これに賛同して署名した国は当初、英国以外ではアフガニスタン、ケニア、フランス、オランダ、ナイジェリアのわずか5か国だった。

これに同調しなかった米国はすでに、独自の対策を講じている。同国財務相は今年初め、ニューヨークで300万ドル(約3億2,630円)以上、マイアミで100万ドル以上の不動産を現金で不動産を購入した人物の氏名公開を不動産業者に義務付けた。

欧米諸国の多くが抱える問題は、世界の最貧国から流入した汚れた資金の流れの上に、産業全体が成り立っているということだ。ロンドンの大手不動産業者の多くは、市内の不動産を自国の市民ではなく、外国の富豪に販売している。パナマ文書の公開で明らかになったように、法律や規則の抜け穴を探す手助けする専門家たちも数多く存在する。

欧米諸国が残酷な略奪国家の誕生を意図せず支えているのは自らであることを認めない限り、“とてつもなく”腐敗した国々は今後も、欧米のさまざまな組織に巣くい、そこから利益を受け続けることになるだろう。

編集 = 木内涼子

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